頑張れ、私

 朝。

 剣崎はいつもよりも早く起き、ベッドから降りると、いつものように制服へと着替えていく。そして、変装用の着替えと刀を床に並べ、一つ深呼吸をした。


 これから自分がすることはこの先、多くの人達の通り魔への恐怖を払拭させる。そして、自分と木塚の因縁をここで終わらせる。

大抵の傷ならすぐに治ってしまうことに甘んじてしまっている自分がいた。木塚の持つ黒い刀に斬られてしまえば、治りが遅くなる上に不快な感覚に襲われてしまう。それが嫌で、経験を積むと言い訳に逃げていたと気付いた。


 これを続けていたところで、何の解決にもならない。結局は力の持たない人達が得体の知れない通り魔に怯える日々が延々と続いていくだけだ。


 だから、今日終わらせる。


「……よしっ」


 短く決意の言葉を吐き、手提げ鞄に押し込んだ着替えと刀を手にし、窓から飛び出す。早朝ということもあり、道を歩く人は少なかった。それでも注意を払い、電柱から電柱へと飛び移っていく。家よりも高い位置にある場所を移っていけば、人の視界には入らないだろう。


 ものの数分で学校の屋上に辿り着き、着替えと刀を以前の置いていた所に置く。


 流石にこの時間では登校している教師は少ない。木塚も、この時間での登校はしていないようだ。


 準備を終え、自宅へと急いで戻り、リビングへと降りる。


「おはよう」

「あら、いつもより早いわね。どうしたの?」

「うん、ちょっとね」


 美希には黙っていようと思ったが、あれほど心配してくれていたのだ。また知らないところで戦っているのを知れば、次は卒倒しかねない。テレビなどで知るよりも、事前に知っていた方が気持ちの持ちようが全然変わってくる。


「えっと……お母さん……」

「なに?」


 朝食をテーブルに並べていく美希がこちらを振り返り、首を傾げさせる。だがすぐに察したのか、表情を曇らせた。


「……無茶しちゃだめよ」

「うん」

「食べて元気つけなさい。いっぱい動くんでしょ?」


 美希は娘の椅子を引き、座るように促してくる。それに倣い、剣崎も座り、テーブルに並べられた朝食を食べていく。


 いつも食べる朝食だが、今回ばかりはとても美味しく感じた。そして、それと同時に胸がざわつく。


 もしかしたら、この朝食が最後の食事になるかもしれない。その緊張が、剣崎にとって重くのしかかってくる。


 だが、そんな事はさせない。自分が勝ち、再び家族で普段と変わらない生活を送るのだ。毎日学校に行き、親友と喋り、遊び、家族で会話をし、父の堅い口調と母の柔らかい口調と受け継いだ自分の口調で――。


 当たり前の生活をこれからも続けていきたい。


 だからこそ、勝たないといけない。


 食事を終え、身支度を始める。後で変えるのに入念に寝癖の確認をし、鏡に映る自分を見つめた。


「よし、がんばろ」


 気合いを入れるために頬を叩き、自分に語りかけるように呟く。

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