追う者
深夜、警察署。
机が多く並んだ一室にて一人、宗司が大きなファイルに綴じられた書類を険しい顔で眺めていた。書類は通り魔に襲われ、行方不明となった者の情報。どれも共通点は無く、犯人の関係者では無いというのが、一目で分かる。犯人の情報は、一八〇センチ前後の身長、男性のみ。
少なすぎる。
凶器は刃物であるのは間違いない。しかし、行方不明になる前の被害者に対して、事情聴取を行ったが、その刃物が何なのかは分からなかったようだ。
「手詰まりだな……」
忌々しそうに呟いた後、机に置いていたコーヒーを一口飲む。
すると、閉められていたドアが勢い良く開け放たれ、若い警察官が入ってきた。
開かれた音に、宗司は顔を顰めさせると若い男性に軽く注意する。
「おい、少しは静かに入れないのか?」
「け、剣崎警視!? す、すいませんっ!」
若い警察官は背筋を伸ばすと、元気よく謝罪する。だが、その体勢はすぐに解かれ、こちらに向かって足早と歩み寄ってきた。
「あ、あの……数時間前なのですが、中学生がカツアゲにあった様なんです」
「それがどうかしたのか?」
「その、その彼を助けたのが……日本刀を持った女性だったようなんです」
「なに?」
日本刀は許可を下りない限り、所有は認められていない。許可も取らずに所有した者は、この日本では銃刀法違反となり、逮捕の対象となる。それは誰もが知っている常識だ。
「例の通り魔なんでしょうか……」
「通り魔は男だ。だが、銃刀法違反。逮捕の対象だ」
性別が違うが、情報が違うだけで実は女性の犯行なのかもしれない。だが、被害者が口を揃えて男性と口にしている。犯罪者なのは変わりないが、通り魔の犯人ではないだろう。
「で、そいつの特徴は?」
「はい。黒いジャージにマスク、目付きの鋭い、一八〇前後の女性だそうです」
一八〇、だと。
宗司は目を細める。
「そんなに高いのか?」
自分と同じ身長程の女性。奇しくも、自分の娘とも同じ程。性別も同じで、同じくらいの身長に、娘の顔が浮かんでくる。だが、目付きが鋭いという特徴からしてすぐに除外される。彼女の目付きは鋭い、悪いとはかけ離れたものだ。その上、消極的な娘にこんな真似は出来る筈が無い。それに、自宅には日本刀など所有していない。
「來原巡査」
彼の苗字を呼ぶと、彼は先程のように背筋を伸ばす。
「はいっ!」
「その女性について、情報を掴めたらすぐに俺に伝えろ。通り魔の可能性がある」
「え、でも犯人は男性だと」
「そうは言ったが、もしかすると身長だけで男性と判断したのかもしれない。とにかく、任せたぞ?」
「はいっ!」
宗司は顎に手を当てると、机を指で数回叩く。
「必ず捕まえるぞ、通り魔」
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