第三節

「――ふぅ」

 中に入り、スロープの先にある、ぼんやりとオレンジ色に照らされたエレベーターホールを眺めて小さく息を吐いた。

 毎日のように訪れている場所。

 そのはずなのに、慣れる事のない異様な雰囲気に息が詰まる。

 暗いという事を売りにしているのか……。

 とにかく薄気味悪い印象しかない。

 それに……。

……駄目だ……仕事しろ……仕事だ……仕事。

 ドアが閉まるのを横目で確認すると、不快感が強くなっているのを覚えながら、スロープを上り始めた。

 ゆっくりと。

 意識せず。

 いつものように。

 そして……。

……考えるな……考えるな……考えるな。

 一歩一歩踏み出す毎に、憂鬱な気持ちが募る。

 エレベーターホールが近づくにつれて、確実に……。

……あの顔が……。

 エレベーターホールに倒れている。

 俯せに。

 エレベーターのドアに。

 手を。

 掌を。

 押しつけて。

 傍に寄ると。

 そして……。

……いつもいつもいつもいつもいつも……。

 鮮明に……。

 目に焼き付いて離れない光景。

 ほぼ毎日のように。

 絶対に……。

 思い出される。

「いつも……」

 エレベーターホールに着くと、床から目を離さずに、そう呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る