第二節
「――悪趣味だ」
エントランスに入ると相変わらずの薄暗さに文句が零れた。
光量の低い照明がエントランス内を照らし、目の前にある郵便受けと集合インターホンを気味悪く際立たせている。
……1401号室……。
見てはいけないと思っていた。
だけど、見てしまった。
見ないようにはしていたつもりだったが……。
否が応でも、目に入ってしまった。
「……くそっ」
【チラシ等投函禁止】と書かれ、封をされている郵便受け。
部屋番号が1401号室。
その郵便受けから目を逸らし、悪態を吐いて、堅く目を瞑る。
……思い出すな! やめろ! 消えろ! 消えろ! 消えろ!
〈あの顔〉が瞼の裏に映り出す。
全身に寒気が走り、頭の中が不快感で満たされる。
……消えろ! 消えろよ! やめろ! やめろ! やめろ! やめろ!
目を見開き、頭を掻き毟り、首を振って気を散らす。
「……よ、よし、入るぞ!」
〈あの顔〉を意識しないように声を出すと、首をもう一度だけ強く振り、集合インターホンを見据える。
……さっさと終わらせて帰るんだ!
心の中で自分に言い聞かせると、目の前のインターホンに備わっているボタンを押し始めた。
……暗証番号は……。
【0】から【9】、そして、【♯】と【*】が三列四行に配置され、その下に、【呼出】と【クリア】というボタンが備わっているという、在り来たりの集合インターホン。
このマンションの集合インターホンは五桁の暗証番号を入力することで、オートロックを解錠することが出来る。
もちろん、鍵による解錠も可能なのだが、ここの住民でない限り鍵は手に入らない。
しかし、各部屋の玄関に新聞受けがあるから、中に入らないことには新聞配達員としての俺の仕事が果たせない。
そこで、営業所にマンション側から、このオートロックの暗証番号が通達されていた。
ピーピー! カチャン!
俺が暗証番号を押し終えると、電子音と共にロックが解錠された。
数日前に暗証番号が変更されたみたいだが、それも営業所に通達が来ていた。
……やっぱり……あの件のせい、だよな。
甦り、襲い来る不快感。
再び、頭に過りそうになる〈あの顔〉が……。
「仕事っ!」
目を擦りながら、そう声を出して気を紛らわせると、新聞の束を抱え直し、ドアを引いて開けた。
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