12/29②



 デパートの閉店後、俺は三軒茶屋駅から電車に乗り、渋谷駅に辿り着いた。

 駅の中を、十番のコインロッカーを探して、歩き回る。


「こんばんは! アオハルの水瀬です!」

「同じく、アオハルの湯本です」


 丁度俺が向かっている先で、テレビのロケが行われていた。

 芸人コンビだろうか、全くタイプの異なる二人の青年が、テレビカメラに向かって挨拶をしている。


 最初に元気よく挨拶をした方は、アイドルだと言っても違和感がないくらいの明るい表情をしたイケメンだった。

 もう一人の方は、暗い顔の眼鏡で、非常に目付きが悪く、テレビでしちゃいけないような顔でカメラを睨んでいるように見える。


 カメラクルーの真横を素通りしていくと、イケメンの方から「ちょっとよろしいですか?」と話しかけられてしまった。

 一応足を止めて振り返ると、彼がにこやかにマイクを向けている。背後には、亡霊のような佇まいの相方がいるのでちょっとぎょっとしてしまった。


「渋谷駅利用者にインタビューをしているのですが……」

「すみません、急いでいるので」


 苦笑して頭を下げると、イケメンの方は「そうですか」とマイクを下げた。

 すると、今度は、目付きの悪い方が、ロボットのように口を開いた。


「来年の四月から、アオハル初の単独ライブ『四月のバカ』がスタートします。どうぞよろしくお願いします」

「は、はあ……」


 俺は訳の分からないまま、会釈をして、その場を後にする。

 後ろの方で、イケメンが「いきなり宣伝すんなよ!」と突っ込んでいる声が聞こえた。






   □






 しばらくして、十番のロッカーを見つけた。

 鍵は刺さったままになっているので、警戒しつつ、開けてみる。入っていたのは紙が一枚だけだった。


「朝猫間雪持魅面緑観路月代座都

 胃麻蚊手所目東恵乃阿町西十五

 少魚田南二泊香一秋他乃日原無

 遠時一祖桃鹿足重蜜発北後偉木

 愛染大笠季的東者理升西小共茜

 高戸埋隙南貸田爆朝雪得先年市

 眼調飯次糊北里医藻殿東増非尾

 来百西見家佐二南米治耳園奇泣

 丁目先朗疑北布反米母治東升総

 例問西牧栄農用南計未柱詩丁記

 露腰崎煤酔豆電指話北義号外青」


 またしても、意味のなさそうな文字の羅列だ。

 それが印刷されているのは、「NEWS」という右斜め上を向いた文字がいくつも、薄目に並んでいる紙だった。


 この「NEWS」を日本語の「東西南北」の略称を表しているのは、漢字の列の中にいくつも東・西・南・北の四文字が出てくるので明らかだろう。左から読めば、ちゃんと「東西南北」の順番も守っている。

 そうならば、「東」の右を、「西」の左を、「南」の下を、「北」の上を順番に読んでいけばいいのではないのだろうか。


 「恵十祖乃者升糊貸増百反佐升問指未」

 うん、絶対に違うな。意味のある文にならない。


 そう言えば、この「NEWS」の文字は、右斜め上を向いている。

 この右斜め上を、北と設定すれば、読むべきなのは「東」の右下、「西」の左上、「南」の左下、「北」の右上ではないのだろうか。


 「一月一日爆発次田園調布二丁目電柱」

 今度は合っていたようだ。俺は思わず指を鳴らす。


 しかし、奴が狙っているのは、あろうことか正月か。腹が立って、歯ぎしりしてしまう。

 それまで、俺を振り回すつもりだろうが、上等じゃねぇか。絶対に止めてやる。



























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