貧乏くじ男、東奔西走

夢月七海

12/29①



 午後九時、退屈さえ感じる平和なホール内の様子に、俺は思わず欠伸をしてしまった。

 今年の四月に、ある事件を解決したことがきっかけでこの三軒茶屋のデパートに雇われることになったのだが、対応としたのは迷子や落とし物などを捜索などだ。


 たまに、勘違いした客から、「妻にプレゼントを送ろうと思うけれど、何がいい?」とか、「ここに口裂け女が働いているって聞いたけど、本当?」とか、よく分からない質問をされる。

 探偵は、コンシュルジュでも、オカルト専門家でもないんだが。


 そんなことを考えながら、デパートの柱を囲むように設置されたベンチに座って、足を組んだまま頬杖をついていると、目の前にぱさりと紙が落ちた。

 足元しか見えなかったが、赤い傘を持っている男性が落としたようだった。軽く屈んで、その半分に折られている紙を摘まむと、中身が見えてしまった。


「あとみさうしだきちるょととうしがの

 さどりりこきみかえがにとぽばわのく

 なだまぃんーうをにちしもゅかずつけ

 かたすりまをぉずわおしけもぶざゃや

 をえむつきごぎのろまこほぅいまふん

 りろじせっもゅかわよーじぶじばぁゅ

 ううみえばこなんもとをさがみせぎよ」


 波状の線に囲まれた便箋の真ん中に、無意味な言葉の羅列があって、俺は思わず眉をひそめた。

 いや、これは暗号か? 例えば、便箋の波と言葉が対応していて、波が下がった部分の文字だけを読んでみるとか……。


 「とうきょうの どこかにばく だんをしかけ たまずしぶや えきのこいん ろっかーじゅ うばんをみよ」


 二番目の文字を、その後は二つ飛ばした文字を読んでみると、そんな文章が浮かび上がってきた。

 俺はすぐに顔を上げる。しかし、すでにこの紙を落とした男の姿は見えなくなっていた。


 デパート内を、閉館の時間まで探し回ったが、結局赤い傘を持った男の姿は見つからなかった。

 これを、彼はわざと俺の前に落としたのだろうか。俺への挑戦状のつもりで。


 それを意識した途端、どうしようもなく、体が震え出した。これは恐怖ではなく、武者震いだ。

 渋谷駅のロッカーにも、爆弾は無いだろう。そこからまた、新たな暗号が仕掛けられているのだろうか。


 ……やってやろうじゃないか。必ず、爆弾を見つけ出してやる。

 俺はシャッターの閉まったデパートの外から東京の街を眺めて、暗号の紙をくしゃりと握り潰した。
























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