あの時

朝から午後になるまでそう時間は掛からなかった。放課後になるころには雨がしとしと降り始めていた。僕はホームルームが終わると帰る支度をした。

「おい、誠、」

隣の三隅に引き留められた。

「ん?」

「俺さ、昨日の帰り道にさ杉が三年の女子に囲まれていたところを見たんだが。」

深刻そうに三隅が僕に話しかけた。

「はあ?」僕の頭には彩さんの言葉がよぎっていたため、思考が止まった。

ええと。昨日ってことはアイツが告白された日だよな。

「なんでか、わかるか?」

「まあ大体は。」

「そうか。。」

三隅の顔には不安げな色が見えた。

「美香、何かされたのか?」

僕は身を乗り出し問い詰めるように聞いた。

「あ、いや、よく見えなかったんだが、なんか、めっちゃくちゃ言われたのは遠くからでもわかったよ。」

こいつ、見てたのかよ。眉間にしわが寄るのが自分でもハッキリとわかる。

「ああ、そうか教えてくれてありがとな。」

そう言って、僕は一年五組に走った。

  自分には助けてやれ何ていえない。アイツが中学の時、いじめらていることは知っていた。。アイツ男子に媚売ってんじゃんと周りの女子が言い始めたのがきっかけだった。それから美香は毎日つらい思いをしていたのにも関わらず僕はなにもしてなかった。ただ、アイツの傍にいることしかできなかった。数か月たったある日、彩さんがついにぶちぎれて、美香をいじめていたやつを口論でボコボコにしていた。暴力ではなく口で戦う彩さんは本当にかっこよかった。僕はその時言われたのだ。誠、美香の傍にいてくれてありがとね。ただ、傍にいただけなのに助けもせずただ傍にいただけだった。それでも彩さんは僕にありがとうと言ってくれたのだ。

一年五組はホームルームがとっくに終わっていたようで、美香の姿はなかった。

「まじかよ。」僕は急いで階段を降りた。


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