第二話 ダメ魔女っ娘に使い魔とやり直し!

 目覚めるとそこは真っ暗な空間だった。どうやら椅子か何かの上にいるらしい。空間は音一つなくとても静か。やかましいのがすぐ横にいるが。テリーはあたりを一周ぐるりと見まわした。延々と闇が広がっていて自分の黒い身体は全くと言っていいほどに見えない。隣にいるやかましいやつ、シビルの黒い髪やローブは見えないがその緋色の瞳と白い肌、それに赤々としたローブの装飾ははっきりと見えている。

「なあ俺たち死んだのか」

「さぁ?」

一人と一匹は目を見合わせる。

 するとどこからともなく鐘の音が響き周囲に光が広がっていった。

「ごーんごーん」

「おまえはいちいちなぜ金属音を繰り返す」

「なんか面白いじゃん」

一人と一匹が話しているとその前にそこそこ神々しいかもしれない羽衣を身にまとった、容姿端麗な女性がゆっくりと表れた。

「魔法使いシビル・オーウェンとその使い魔テリーあなた方は死にました。それも魔王の使いである巨竜ヴェルリットに美味しくいただかれて」

「死んだんだ」

「食われたのか」

「はい。食い殺されました。私は本来であれば別世界で若いうちになくなってしまったダメ人間の方々の魂をそのまま天国へ送って天国がダメなところにならないよう、あなた方の世界へ勇者という形で送り込み邪神を倒すことを通して更生させるという仕事をしている女神です」

女神さまはにこやかな笑みを浮かべてあっさり食い殺されたとか言った。あといつの間にか自己紹介をしていた。

「魔王の使い。なるほどそれなら戦ったところで勝ち目はなかったですな。それでそれで別の世界というものが存在すると……。ところで、なんで私達がそんな方の前にいるんですか」

ダメ魔女、馬鹿なのか頭がいいのかこういうことの飲み込みは早い。シビルは右手を両足の間について前のめりになりながら、利き手の左手で、はいはいといったように手を挙げている。テリーはその様子を黙って見ている。

「魔王の使い程度でひるんでいては困りますよ! いやですね、あまりにもあなた方がとても短くみじめで可愛そうな人生を送ったものですから。可愛そうになってなんとかならないかと思いましてね。そしたらちょうどあなたが仕事を全部使い魔のテリーさんに任せっきりでずっと暖炉の前から離れないような末期的なダメ人間だったんですよ」

きっとシビルのことだ。内心ムカッと来ているであろう。

「なので例外的に上司にお願いしてあなた達の魂をこの流れに入れてもらったのです。私の仕事が『ダメ人間の魂更生プログラム』で良かったですね!」

テリーはふんと鼻で笑った。こうも堂々とダメ人間ダメ人間と言われて悔しそうにしているのが見ていて面白い。

「なるほどなるほど。よくわからないです。それでどうすれば?」

「わからないならなるほど言うな!」

「まあまあ……。あなた方にはこれからの選択肢を与えます。一に、邪神を倒す義務の代わりにもう一度あの世界で生きるという道です。もちろん記憶と体はそのままですが建前上は異世界からの転生用の制度なので例えばそう、あなたの絶大な魔力と知力はどうなるかわかりません。二に、あなた方の世界の魂の輪廻に従い全く違う新たな人生を一から始めるという道です。あなた方はどちらかを選ばなければなりません。質問はお気軽にどうぞ!」

「邪神を倒す義務を果たそうとしなかった場合どうなるのですか?」

シビルはまるで学校の受業かのような質問の仕方。

「来世が馬の糞になります。もちろん店で売っても1ウェートにもなりません。馬の糞には死の概念がありませんから風化してなにかのしみになって消えるまで魂は残り続けます」

また女神様はニコリと笑う。

「ひぃ」

シビルは変なポーズをとる。テリーはシビルを真似て手を挙げ質問してみる。

「女神さんや、2つ質問がある」

「どうぞ」

「まず1つ目、俺はちゃんと仕事して全くだめでもなければ人でもないんだがその義務とやらは適応されるのか?」

「もちろんです。使い魔はその主と同じ権利、義務、責任を背負います。それにあなたもじゅうぶんダメな方ですよ変態猫さん。神様はみています。あなたが毎晩布団を温めるさいシビルさんの昨晩の寝汗の匂いを嗅いでいたり、シビルさんが仰向けに寝ているときその平らな胸の上で丸くなって寝ていたりするのを」

シビルは顔を赤くしながらその話を聞いていた。

「誤解を生む言い方はやめてくれよ! 匂いを嗅いだのは猫の本能、あのぺったんこの上で寝てたのはただ単に寒かったからだ!」

焦って弁解しようとするが女神様とシビルの冷ややかな視線が鋭く突き刺してくる。

「次に二つ目」

ここは話を次に移すのがけんめいだろう。テリーは一度咳払いしてから、

「このダメ魔女がどんな力が手に入るかもわからないのにまともにその義務とかを果たすとは思えないんだが」

「それならご安心ください。あなた方には望んだ力、もしくは物を一つだけ差し上げます。とはいっても、いままでの勇者さん方で見事に力に溺れてダメ人間へ逆戻りしたひとが結構いたのでそんなにすごい能力は与えられませんが」

「ほー、なかなかおもしろいですね! 私は邪神討伐がいいです」

シビルはあっさり決めた。

「では決定ですね! 望むものを考えてください! 一例はこちらです」

シビルはノリノリで女神様に言った。女神様は一例と言いながらバインダーに挟まった紙の束をシビルに差し出す。

「俺に選択権はないのか?」

「ないです。主が決めたことに従ってください」

きっぱりと言われた。じゃあしょうがない。テリーもなににしようか考える。

「私、『シャルハート・ウィッチ』の職につかせてください!」

「はい。了解しました」

女神様は手に持った書類に何かを書き込む。

「やっとだー。卒業証書はあるのにシャルハートにつけてないなんて変な話だもんね!」

シビルは死んだという事実をすっかり忘れているようで楽しそうだった。テリーはどうしようかと考える。

「……じゃあ俺、人間になりたい」

「はいっ?」

「はぁ?」

二人は声を揃えて言った。

「うん、だから人間になりたい。俺さ、人間の思考できるのに言葉も何も人間じゃなくてすっげー鬱陶しかったんだよ。だから人間になりたい」

女神様は一度冷静になって、

「はい、といいたいところではありますが意図的な異種生物間での転生はかなりのリスクを伴います。失敗すればあなたの魂は永久に世界の深淵へと閉ざされるでしょう」

「えっ、なにそれ怖っ」

「しかも成功してもせいぜい人間でいられるのは一日の半分だけ、残りの半分は元の姿つまり黒猫の姿で過ごすことになります。つまりは獣族の方々に近い状態になります。それでもよろしいなら」

「うーん、一か八かやってみるか……」

「はい。了解しました」

女神様は同じように手に持った書類に何かを書き込んだ。

「えっ、いや俺考え中でつぶやいただけなんだけど」

「もう遅いですよ。それではいってらっしゃいませ」

女神様はテリーの話を華麗に流し、清らかな歌のようなものを奏で始めた。すると一人と一匹、あるいは二人になるかもしれない奴らの足元に魔法陣のようなものが現れる。その魔法陣はテリーとシビルを空気があるかないかははべつとして空中に持ち上げ、その後目も開けられないほどにまばゆい光を放った。



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