第3話 僕の仮説

 一目ぼれだと思っていた。

 まあ、そもそも恋なんてしたことはないから、この背筋を伝う感覚が正しいかどうかをわかっていなかった。という言い訳をする。


 しばらく彼女を見ていると、ふと既視感を得た。よく自分が行っていたメイド喫茶のことだ。ある日、急にそのお店には入れなくなってしまった。

 当時自分は誰がお気に入りとかそういう目当てではなく、その店の雰囲気とかが好きで入り浸っていた。ちょっとやんちゃな自分を見せつつ、媚びる同類とは違うことも、ちょっとした優越感だった。


 もしかして、彼女はその店で働いていたのかもしれない。

 今となっては知るよしもないが、そのふとした懐かしさが、彼女に対する特別な感情を抱かせているという仮説を立てた。

 現に、彼女がチラシを配っているのは過去そのメイド喫茶があった場所からそう遠くない。


 彼女のチラシを誰ももらってくれない。やはり、新しいメイド喫茶だかなんだかができたんだろう、だとすれば新たな職場の仕事か。猫の着ぐるみを着た彼女は心なしか、疲弊しているように見える。


 それから数分経ったころだった、チェックのシャツをきたあからさまなオタクらしい青年が彼女の近くにやってきた。


 彼女の知り合いだろうか。新たな展開に少しドキドキしながら、様子を見ることにした。

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