第2話 私の事情

「誰も受け取ってくれないぃ」

 少し暑い猫の着ぐるみの中、後悔していた。外人さんがたくさん写真を撮ってはくるけど、チラシをもらってはくれない。

 なんだよ、社交的なのかなんなのかよくわからないな。


 私は秋葉原が好き。とくにこの、歩行者天国という非日常。ただでさえ非日常感のある街なのに、よりごちゃごちゃした感じの地上と、青い空のコントラストがとってもいい。

 何がって答えられないけど。


 一年前ほど前に、勤めていたメイド喫茶があった。あの時は、たくさんのお客様、えーと、ご主人様が来ていろんなお話を聞かせてくれて楽しかったし、居心地のよいところだった。

 けどなんだか、もう秋葉原で働こうとかそういうのはなくて。

 今実はこの着ぐるみで配っているチラシは、呼び込みとかではない、ちょっとしたアートみたいなもんだと思っている。


 うーん、なんだろう。ご主人様たちは、やっぱり、コミュニケーションは苦手だったかしら。着ぐるみは逆効果だったかしら。


「もういいかな……」


 と、口に出しちゃったとき、ふと視線を感じた。

 歩行者天国の道路を挟んだ向こうからずーっとこっちを見ている。


「う……まってまって……あの子……」


 かわいい。第一印象、好きなタイプ。ただ、特にこちらに来る感じもないので、しばらくはここでチラシを配り続けよう。

 ああ、秋葉原は今日もいい天気だなあ。

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