第5話アナリシスの非日常3
数分後私の想像よりもはるかに早く二人は魔力を知ったようで目を同時にぱちりと開けた。
「アナリシスさん、わかりましたよ」
「俺もだ」
二人ともとても晴れやかな表情をしている。
「そう、よかったわね」
私がそう言うとナトリがきょとんとしながら私を見つめてくる。決して自信過剰ではない。
「能力を聞いたりしないんですか?」
「うん、しないよ。そんな不躾な質問はね。変わりに私に外の世界のことを教えてくれない?そして手を貸してあげた代価は私達とタメ口で話すこと」
「外の世界?案内しろってことか?」
ゼクスは不思議そうに聞く。適応が早いというか最初からタメ口だったような気もするが気に留めないことにする。
「いや、話してくれるだけでいいの」
「ゴミ。以上」
ゼクスの顔が死んでいる。いったいどんなゴミであふれている世界なんだろうか。何だか外に出るのが不安になってきた。
「ゼクス、それじゃ何もわからないと思うよ。そうだな…あまりいいところではないかな。貴族と平民とは天と地ほど生活が違うみたいな上下関係の厳しい世界だよ」
「そうなんだ……だから」
だから、貴族が力を持つためにそして下克上が起きないように長い時を経てこの世界を作り上げたのか。
「何て言ったの?」
「いや、こちらの話だよ」
カチャリと食器の音と料理の匂いが漂う。メイが気を利かせて料理を準備してくれたのか。確かに二人とも痩せ気味だしきっと食べてないんだろうとメイも判断したんだな。
「どうぞお召し上がりください。アナリシス様もまだ朝食を済ませていらっしゃらないようなのでどうぞ」
外の時と同じメニューが少年二人の前に並べられている。
「「ありがとう!」」
二人は感激しながらフレンチトーストにかぶりつく。とても幸せそうだ。さて、私も朝食の続きとするか……。
「メイ?」
「紅茶の中に入れるのがお好きなようなので先にそうさせていただきました」
「ひどい」
私は半泣きで紅茶に浸かったちゃぷちゃぷのフレンチトーストを食す。
「ところで二人は普段は毎食きっちり食べているの?」
「食べてないよ。魔の箱は差別されていて奴隷と同じ扱いで食事はほとんど最低限しかもらえない。そして暴発しそうになると殺されるんだ」
ナトリは恐ろしく淡々と話す。以前の自分のことであったのにまるでそんなことは自分には関係なかったかのように。
「俺達は抜け出すのがもう一日遅かったら殺されていた。ここに来るのは最後の賭けだったんだ。成功してよかった」
ゼクスは安堵した様子で言った。
二人ともかなりの冷遇を受けていたに違いない。今はどのような感じか知らないが私の知っている奴隷とは睡眠時間五時間でそれ以外はほとんど働きづめの人権のない人達だった。
「アナリシス、やっぱり僕らがしてもらったことはこんなこと話したくらいで返せるものじゃないと思う。だから、もっと他で手伝えることないかな?」
「じゃあ、私の一日話し相手」
「それは安すぎるな」
「それなら、ゼクスが最初に言ったやつにしよう。私が外の世界を見に行く付き添いをしてよ」
これなら納得してもらえるかなと思い二人を見ると何やら二人してこそこそと話をしている。何か間違ったことを言ってしまったのかもしれないと思ってメイに話しかけようとするとあらぬ方向を見て目を合わせてくれない。
どうしようと思っていると二人がこそこそ話をやめて私の方へ向き直った。
「僕達二人の命が尽きるまでアナリシスに付き合うっていうのはどう?」
「俺達はもともと死んでいたも同然なんだ。だから拾った命は拾ってくれた人のために使いたい。そもそもそのつもりでいたんだ」
なんか、告白された気分なんですがメイさんどう思いますか?と言いたくてメイを見てもその視線の先は変わっておらず私には助けてくれる人がいない。
「それは勘弁して…」
「なら、こうしたらどうですか?アナリシス様にもう恩は返したと思えたらこの方から離れる。また、アナリシス様は以前仲間及び友人が欲しいとぼやいていらっしゃったのでなって差し上げる。これなら双方納得できるのではないでしょうか」
「なっ!?主の恥ずかしいことは言わないのがメイドの務め!というか私はそれでも納得しないよ!」
「メイドの務めは主の願いをなるべくかなえて差し上げることですからそうしたんですよ。それにお二人がアナリシス様と近しくなればいつしかアナリシス様から離れていくものだと思われますよ」
「む、確かに」
確かに私の化け物じみた魔力を見たら大体の人が怖がって私から離れていく実体験があるものね。私から離れていかなかった人なんて数人の同じような化け物みたいな人達だけだった…。頭に浮かぶ数人の顔。一番印象的な顔はメイの笑顔。でも、あれ?これって……
「じゃあ決定だな!アナリシスこれからもよろしく!」
「よろしくね!アナリシス!」
「あ、うん!よろしく!!」
「早速、旅支度を整えましょう。その前に二人には新しく服を作って差し上げましょう」
この日初めて世界樹の中で私はすごく楽しくて嬉しいという感情を持った。
ヒライス @nemes
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ヒライスの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます