第3話 ある昼休み、彼女は提案する。

 今日の授業は後半に差し掛かった。

 ――昼食の時間だ。

 俺はいつも一人、教室で静々と昼食を摂っていたが、今日は違った。優美ゆみも一緒なのだ。俺がこんな美少女と高校で昼食をれるなんて、これは夢なのではないか。おにぎりを右手で持ちながら、左手で自分の頬をつねる。

 やはり夢ではない。きちんとした現実だ。


「なんで頬を抓ってるの?」


 俺の様子を不思議に思ったのか、優美が首を傾げていた。


「いや、なんとなく」


 こんな自分の哀れな行動を知られたくなかったので、俺は大体のことは回避出来る『なんとなく』という言葉を選んだ。やはり、俺が思うにこの言葉は最強だ。


「あ、そー? あ! それより陰仲って帰宅部?」


 優美がはきはきと会話している光景が珍しいのか教室にいるクラスメイトの目の焦点が明らかに俺らに向いていた。今では目立つことをあまり好んでいないのでやめてほしい。

 そしてなぜ、優美はこんなにも目を輝かせて俺に質問をして来るのか。そんなに俺が帰宅部であって欲しいのか。まあ、嘘をくということにはなんの意味も無いと思ったので、正直に答えることにした。


「ああ、帰宅部だよ」


 間違いなくこの答えが優美の期待していた答えだろう。なぜならそう言った時、彼女の目の輝かしさがさらに一段階アップしたからである。だが、こんな質問の答えを知ったところでどうなるのだろうか。

 そう考えていたら質問するまでもなく優美が答えた。


「じゃあ、『同好会』を作ろう!」


 正直、この提案はとてもおもしろいものだと思った。

『同好会』――その言葉の響きをなぜか俺は気に入り、自分を退屈から解放してくれる気がした。なので、俺はもちろんこの提案に反対せず、賛成することにした。


「いいね! それ名案だな」


「でしょー。まあ、私天才だからね」


「それ自分で言うのか――」


 俺は優美の自画じが自賛じさんに苦笑した。

 そんな時、また疑問が脳裏をぎった。


「そういえばその同好会ってどんな活動する同好会なん?」


 そう質問して十秒の間、俺の耳には教室でがやがやと話しているクラスメイトの声しか届いていなかった。優美が口を開けた時は、俺がもう一度さっきと同じことを言おうとした時であった。


「――? 何やるかなんて私たちの趣味に合った活動をするから予想できるでしょ?」


「えっと趣味かー」


 俺は考えた。


「アニメ制作」


「ちがーう」


「ゲーム制作」


「ちがーう!」


「じゃあ、美形制作?」


「ちがーう!!」


 優美が大きな声を出すので教室にいるクラスメイトだけでなく、廊下にいる他のクラスメイトまでも反応した。余計、目立つじゃねえか。

 その時、一人廊下で明らかに俺たちの方を見て、微笑んだ奴がいたが、俺はほっとくことにした。


「じゃあ、なんだよ!」


「ラノベ制作」


 俺はラノベが大好きなのに、その時は頭からそれが離れていた。


「あーなるほどな。てかラノベ『制作』なんて言うか?」


「そんなこと言ったら美形『制作』なんて言わないわよ」


 確かにそうだ。

 俺は表で頷くと自分の間違いを肯定する気がしたので、心の中で頷いた。


「それよりさ! なんでラノベがすっと浮かばないわけ? ラノベ好きじゃないの?」


 いや、別にラノベが浮かばないだけで好きということを否定されることはないだろう、と思いつつ俺は返事を返す。


「いや、ラノベは大好きだ! 多分お前よりも俺の方がラノベに対しての好感度は上だと思うぞ」


 俺が勝ち誇ったような顔でそう言うと、


「授業中にラノベを読んでいる私に勝てるとでも思ってるの?」


 と、勝ち誇ったような顔を返された。いや、授業中に読んだらいけないだろ。


「なんでそんな勝ち誇ったような顔してるんだよー!」


「それはこっちの台詞せりふよ!」


 俺と優美は互いに睨み合った。やはりよく見ても見なくても可愛い顔をしているな、と思いながら俺は睨んだ。優美は俺の顔に対してどんな感想を抱いているのか、辛辣しんらつなことだけは言って欲しくないな。

 睨み合いは終わり、優美が「まあ、いいわ」と前置きをして言葉を続ける。


「昼食食べ終わったら二人で校長先生に頼みに行くわよ」


「え、普通の先生で良くな――」


「だめ! 身分の高い先生に頼むのが一番いいんだから」


 優美は俺の言葉を遮り、そう発した。

 日本は平等社会なので、そんな身分とかあるのだろうか。


「分かったよ。じゃあとりあえず食う手を動かすぞ」


 こうして、俺は優美の押しに負け、校長室に入ることになってしまった。

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