第34話 宝箱





 蘭華がいきなり宝箱を開けようとしたが、権限がないので開かない。

 かわりに俺が開けると、マナの回復が上がる魔導士のローブが出てきた。

 俺は武器を望んでいたのだが、この宝箱の魔法による抽選の難しいところは、一番望んでいるものは出ないようになっているところだ。


 だから少しずれたものが出てくる。

 俺は魔導士のローブを有坂さんに渡すと、何も考えないようにしながら次の宝箱を開けた。

 次に出てきたのは、金色に輝く連続魔法のスキルストーンだった。


 それも有坂さんに渡す。

 今の有坂さんの魔法では、とにかく威力を上げなければ話にならないのに、なんとも微妙な感じである。


「これも私が使っていいのかい?」

「ええ、出たアイテムは、それを活かせる人のものという事で」

「異議なし!」


 自分の幸運を信じて疑わない相原が俺の言葉に賛同する。

 次の宝箱から出てきたのは、最高レアの刀だった。

 しかし切れ味がいいだけで特殊な能力はない。


「それ僕のですよねえ!?」

「いや、蘭華だな」

「わー、ありがとう! ごめんね、相原くん」


 ごねられると思ったのか、あきらかに蘭華は相原を黙らせるために話しかけた。

 話しかけられた相原は赤くなって俯くだけだ。

 次に出たのは昆虫の足のようなものが生えた具足だった。


 壁を登れるようになるものだが、これは蘭華に持たせるのがいいだろうか。

 壁のぼりなら有坂さんか桜もありである。

 とりあえず保留にして、次の宝箱を開けた。


 出てきたのは、ぶ厚いタワーシールドだった。

 レアとしては最高レベルだ。

 それを相原に渡すと、なんとも微妙そうな顔をした。


 次に出てきたマジックハットを桜に渡し、光る靴下のような飛翔の靴を蘭華に渡す。

 そしてさっきの昆虫の足がついた具足は有坂さんに渡した。

 祭事装束は桜、いくつか出た鎧は動きやすそうなものが俺で、軽そうなものが蘭華、頑丈そうなものを相原に渡した。


 魔法とスキルが出なくて、焦りが出てくる。

 残った宝箱はそれほど多くない。

 大したレアでもない、プロテクションクロークが二つ出て俺と相原で分けた。


 あとは昼夜を逆転させる宝物の夢幻のロウソク、防御系アクセサリー二つ、マナを回復させる蜘蛛糸のローブだ。

 守護竜の首飾りは俺で、スケープゴートの首飾り、蜘蛛糸のローブは桜に渡した。


 スケープゴートの首飾りは、致死性の攻撃を魔法によって作られた人形を身代わりにして一度だけ助けてくれるというものだ。

 絶対に落とされてはいけないのに、極端に打たれ弱いヒーラーに持たせるのがいいと考え桜に渡した。

 ここまでスキルと魔法が少なすぎる。


 とうとう最後の宝箱まで来てしまった。

 冷や汗をかきながら空けたら、出てきたのは筋斗雲だった。

 空を飛ぶ雲だ。


「それこそ僕のだ!!!」

「いや、みんなで使えばいいだろ」

「そんなあ!」


 これで戦力は上がったのだろうか。

 もっと劇的な奴を期待していたのに、スキルも魔法も宝物も微妙過ぎる。


「ねえ、あれも宝箱じゃありませんか」


 桜が指さした先、二階の踊り場のような場所に宝箱が見える。

 飛び上がって二階に移動し、それを開けると、魔槍のスペルスクロールが出てきた。

 ブラッドブレードのように武器に付与する魔法だ。


「よかったな。相原のだぞ」

「ありがとうございます!」


 そもそも魔獣の封じ込められた武器防具が、有坂さんに渡した具足しか出ていない。

 蘭華の靴もそれに近いものだが、どうも攻撃になるようなものじゃない。

 最高レアの武器が蘭華の刀だけというのはいくらなんでもだ。


 蘭華を管理者にして、蘭華に宝箱を開けてもらえばよかったかなという気がする。

 アイテムリストを知っている俺だと、どうしても欲が出てしまうのだ。

 個人的に蘭華に必要だと思ったのは、勝手に回避してくれるような鎧だったが、それが武器になってしまっている。


 そういえば蘭華の空けた宝箱から出たのも武器だ。

 あいつは俺に防具が必要だと考えたのだろうか。

 そうなると俺の身を案じてという事になるが……。


 皆が楽しそうにわいわい浮かれているところから蘭華を引っ張り出して、俺に惚れてるのかと聞いたら殴られた。


「救いようのない馬鹿ね」

「そうなのかなって気がしたんだよ」

「どうしたら、そんな考えが浮かぶのよ!」

「顔が赤いけど、違うのか」

「違うわよ!!」


 いつの間にか、三人から変な目で見られていたので、それ以上の事は聞かなかった。

 宝物庫の戸締りをしてダンジョンから外に出たら、眩しいくらいの青空だった。

 その真っ青な空を見ながら、今後のことを考えた。




「長い付き合いだけど、そこまでの馬鹿だとは思わなかったわ」

「そうかよ」


 ホテルで晩御飯を食べている時になってさえ蘭華は怒ったままだ。

 なんで、あんなつまらないことを聞いてみようという気になったのか自分でもわからない。

 いろいろテンパっていたから、俺の精神状態も変な感じになっていたのだろう。


 武器が微妙だったから、これからの方針としては、やはりレベル上げしかない。

 蘭華はやっと霊力一万五千くらいだ。

 だけど装備とスキルは俺よりもいい。


「自分だけあまりいい物が出なかったから、落ち込んでいるんでしょう」

「俺以外が不甲斐ないから悩ましいんだよ」

「剣治がいればオークくらい何とでもなるわよ」

「トロールはわからないけどな」


 そもそもオークの心配などしていない。

 さすがに冒険者が集まれば、なんとかなるようなものだ。

 沈黙が流れ、その沈黙を破って唐突に蘭華が言った。


「でもね、皆が剣治のようになるのは無理よ。普通はあんなに集中できないし、あんなに勇敢になれないわ。私も真似してみたけど駄目だったもの」


 サイクロプス戦のことを言っているのだろうか。

 早々に電撃で動けなくなった蘭華は、相原を蹴ったくらいしかしてない。

 もっと負けず嫌いだと思っていたから、その言い草はちょっと意外である。


「そうかな。レベルと霊力が上がれば行けるんじゃないか」

「無理ね。剣治の強さはそんなものじゃないのよ」


 こんな素直に負けを認める女だったろうか。

 じゃあ何が原因なのかという気がするが、蘭華は何も言おうとしなかった。

 こちらとしては、もっと張り合ってくれた方がありがたい。


「まあいいよ。トロールくらい俺が倒してやるからさ」

「だけど無理は駄目よ。約束しなさい。ただ無謀に任せて動く剣治を、そのままにして死なせたら、おばさんに合わせる顔がないわ」


 それだけは約束できない。

 むしろ無理をするためにトロールに挑むのだ。


「約束するよ」

「気持ちがこもってないわ」


 睨まれたが、かわいい顔をしているなとしか思わなかった。

 とりあえず、明日は裏庭ダンジョンに行って上位骸骨でも倒してくるかと考える。

 できれば今日中に移動しておきたかったが、そんなことを考えている暇もなかった。


 いや、夜なら空飛ぶ雲に乗って移動すればいいのだ。

 そんなことにすら思い至っていないから抜けている。

 いつまでも引きずっているべきじゃないなと気合を入れなおした。




 上位骸骨すらもはや楽勝である。

 どうも強化コボルト相手に夢中になって以来、体が思い通りに動いてくれる。

 上位骸骨だけじゃ物足りなくて、その奥にいたオークゾンビも相手してみたが、あれほど苦戦した相手が障害にもならない。


 この調子なら、本当に俺一人でどうにでもなるんじゃないかという気がしてくる。

 魔剣の回復にすら頼らずに、あっさりと倒せてしまった。

 そして、やっとイエロークリスタルが出てくれた。


 それを100個ほど量産して東京に帰った。

 帰りは雨が降っていて、とてもひどい目に遭った。


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