第17話 司書




 レックスは全く倒されていないから数が多く、かなり危険である。

 俺一人ならわけもないが、相原や有坂さんがいてはわからないので、すぐに引き返した。

 レックスを遠距離攻撃だけで倒すのは無理だろう。


 レックス自体は遠距離攻撃を持たないから、死に物狂いで突っ込んでくるし、ジャンプ力があるから崖を上る力もありそうである。


「やはり、僕らも槍と盾で戦うしかないようですね。僕らもいつかはガーゴイルを卒業する日が来るのを覚悟していたんですよ」

「レベルが上がってればそれほど脅威でもないだろ。早いうちに倒せるようにならないと、ガーゴイルなんか取り合いになって倒せなくなるぞ」


 今日見た感じでは、モンスターの競争率はかなり高い。

 スライムを見つけるだけでも、かなり苦労しそうな様子だった。

 俺の体感では、敵がリポップするのは2~3日おいてくらいの感覚である。


 俺も周りに追いつかれないように気を付けないと、行くダンジョンが無くなってしまう可能性もある。


「でもまあ、これだけ人が増えると、逆に危険が減って、遠くから倒すだけが戦いじゃなくなっていくんじゃないかな。私も革の鎧を一式で揃えたいところだよ」


 今日の俺は両手剣しか出していない。

 二人もそうなのかと思ったら、まだ装備を持っていないだけらしい。

 どこかで敵が落とすようになれば、簡単にそろえられるようになるだろう。


「昔、どこかの業者が鎧を出してたんだけどなあ。誰も必要性がわからなくて、安い値段で買われてたよ。あれを買っとけば、今ごろ凄い値段で売れただろうにな」


 有坂さんがそんなことを言った。

 たぶんそれは村上さんが俺から仕入れたものを売った奴だろう。


「そんなの重くて、誰にも装備できなかったそうですよ。僕らの霊力じゃとても無理だ。名古屋の方のダンジョンから、革装備一式が出るようになったらしいから、そのうち簡単に揃えられるでしょう。僕はそのうち、あっちのダンジョンにも遠征してみるつもりです。東京よりは混みあわないだろうし、穴場になると思うんですよね」


 俺はとりあえず、裏庭のダンジョンを行けるとこまで行こうと思う。

 さっそくダンジョンに入りたくなってきた。

 その後は連絡先だけ交換して二人と別れた。

 安いホテルで一泊してから、朝方に快速列車に乗って家に帰った。




 家に帰ってから半日横になっていたら、ダンジョンに入れる状態になった。

 準備を済ませたら、日暮れと共にダンジョンに入る。

 庭園まで30分ほどで到着した。


 庭園を抜けるのにも20分と掛からなかった。

 コボルドは既に手こずらなくなっていて、ヘラジカの方もきっちりと自分の実力で倒した手応えがある。

 庭園の先にある石畳の広大な部分は、ひっきりなしにコボルトの群れが集まってくるが、倒せないということもないという感じだろうか。


 動きについていけるようにさえなれば、どんな敵でもそれほど苦戦することはない。

 やはりゲームのように、レベルさえ上げればどんどん楽になる。

 体力的にはシミターと両手剣の二刀流も可能だったが、難しかったのでやめておいた。


 あまり調子に乗ってもしょうがない。

 石畳を無造作に進んでいくと、やっと変化が現れた。

 ここが洞窟であることを忘れてしまいそうになるような立派な城壁である。


 城壁かどうかはわからないが、第一印象として俺はそう思った。

 かなり頑丈かつ、矢を放つ窓のようなものが上部に配置されている。

 足元も攻撃できるように、下側にも狙いが向けられるような工夫がされており、そんなものがこちらに向いて無数の口を開けているのだ。


 城壁はそれほど大きな建物を囲っているわけではなさそうな曲線である。

 とりあえず、城壁の中に入る前に、周りにいるコボルトを全て始末した。

 そこで城壁に空いた入り口をくぐって中に入る。


 正面に石でできた丸い二階建て程度の建物が見える。

 丸い柱が均等にならべられて、上品な建物だ。

 ホワイトハウスという言葉が頭に浮かんだ。


 その建物の前に、上品とは程遠い奴が身構えていた。

 3メートルはある大きな体に、手には棍棒を持ち、頭には角が生えている。

 なんとなくオーガという感じがする。


 もうとっくに攻撃してきてもおかしくない距離なのに、こちらを睨んで動きもしない。

 手始めにアイスランスを放ったら、棍棒で難なく打ち砕かれた。

 さっそく切り札を失ったような気分になるが、よく考えたら俺だって、このくらい距離が離れていたら撃ち落とせる。


 何もビビる必要はない。

 俺は両手剣を構えて駆け寄った。

 振り下ろしてきた棍棒を、俺は横に飛んで避けた。


 その俺に向かって青い炎を吐きかけてくるが、それをオーラだけで耐える。

 体の表面が沸騰するような感覚に耐えつつ、なんとか目だけは守った。

 俺は相手の顔面にアイスダガーを放ち、炎を中断させて懐に飛び込む。


 両手剣を相手の腹に叩き込むが、同時に棍棒の一撃を胸に食らって吹き飛ばされた。

 鎧のおかげで何とか生きているが、今のは当たりどころが悪ければヤバかった。

 オーガは俺に向かって突っ込んでくる。


 手探りで掴んだオレンジクリスタルを3つ砕いて、オーガの攻撃を剣で受けつつ、アイスランスを放った。

 氷の槍は見事命中しオーガの左肩を吹き飛ばした。

 同時に、棍棒の一撃を剣で受けた俺も後ろに吹き飛ばされて地面を転がった。


 剣で受けたはずの棍棒が顔面に当たって、首が吹き飛ぶかと思った。

 力なら俺が完全に負けているから、こうやってカウンターで攻撃を当てるよりほかにない。

 あとは次の攻撃を受ける前に、クリスタルで回復すればいい。


 結局、次の攻撃で右肩を吹き飛ばして、なんとかクリスタルが尽きる前にオーガを倒すことに成功する。

 ドロップアイテムは、金の刺繍が入った白いローブで、アイテムボックスでは賢者のローブと表示された。


 金属で出来た鎖のようなものが編み込まれている。

 これはなにか、追加で効果がありそうである。

 それともう一つ、マジックワンドという杖が出た。


 杖は使わないので仕舞っておこう。

 俺はオーガが守っていた建物に入ることにする。

 両開きの大きなドアを開けると、聖堂といった感じの室内だった。


 真ん中に土台があって、その上に大きなオーブが薄暗い光を発している。

 周りには本棚と机、長椅子などが置かれている。

 これまでの朽ち果てた建物と違い、まだ使えるものが並べられていた。


 ラウンジのように見えるのだが、椅子や机などのサイズが人間向けとは思えない程でかい。

 建物の奥に向かって何段か高くなっている。

 外からは丸く見えたが、どうやらひょうたん型の建物のようだ。


 一番高くなった場所で、3つの宝箱を見つけた。

 これは空飛ぶ絨毯が出来たとテレビでやっていた宝箱そのものである。

 宝箱が空いた様子はないし、中身が入っている可能性が高い。


 俺は飛びついて開けようとしたが、まったく開く素振りもなかった。

 空飛ぶ絨毯を出した男は、テレビで真ん中の球に触れたら開くと言っていたが、なんの反応もない。

 どこをどういじっても無理である。


 仕方なく俺は、部屋の中心にあったオーブのような珠の方を動かしてみることにした。

 ダンジョンにあるアイテムの動かし方はわかっている。

 大体は魔力を流せば動き出すのだ。


 俺は台座にある階段を上って、オーブに触れた。

 その瞬間、俺の中に様々な知識が流れ込んできた。

 雷が落ちたように体がしびれて、視界がホワイトアウトする。

 そして俺は、この建物が大図書館であることを知った。


 そして自分がこの図書館の司書になったらしいということも知ったのである。

 司書として、この建物が使用可能になり、同時に貯蔵された知識の呼び出しが許された。




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