第16話 販売会
免許の交付を受けたら、全国の業者が集まる販売会に三人で向かった。
相原はなにやら電話で今日の講習会の様子を誰かに話している。
チーム全員に免許の交付を受けさせるというようなことを言っているから、様子見のつもりで来ていたのだろう。
あれだけ目立った後だから、即売会の会場を歩いているだけで、色々な人から声をかけられる。
有坂さんは東京勢の中で一、二を争う実力者であるが、ソロかつ誰とも関わらないようにやってきたから顔見知りはいないそうだ。
滋賀県や熊本県にあるダンジョンにも実力者はいるだろうが、そっちは大阪の講習会に出ていて、ここに居る可能性は少ない。
そんなことを有坂さんと話していたら、村上さんを見つけた。
「講習会に出てきたんですね。今日は私も稼ぐつもりで来ましたよ。しばらくはレベル持ちの講習会に張り付いて、こっちで商売します。なにか売り物はありませんか、伊藤さん」
俺は売るつもりで持ってきたレイピア3本を村上さんに売ることにした。
考えてみたら、俺がこの場でこれ以上目立つことをやるべきではない。
アンデットダンジョンのドロップも、自分が持っているところを、あまり周りに見せたくはない。
周りに見えないようにして、レイピア3本を村上さんに渡す。
細身で重すぎないレイピアに、村上さんは笑顔になった。
売れると思ったのだろう。
しかしリーチの短い武器の扱いはさらに悪くなっている。
それでも今なら売れないこともないだろう。
客の数だって、この公園内に数千人はいるんじゃないかというレベルだ。
俺は村上さんからお金を受け取った。
相原はスキルストーンを売ってる店の前で、足を止めている。
こんなところでは買わないと言っていたくせに悩んでいるようだ。
買うか悩んでいるのは俊足スキルである。
金色ではなく銀色の石だ。
銀とは言え、こういったスキルストーンはべらぼうに高い。
悩めるという事は、買えるだけ稼いでいるのだろう。
俺では全く手が出ない価格である。
色々と流し見てみたが、良さそうなもので俺に買えそうなものはない。
チームの勧誘もいたるところで行われているが、俺も有坂さんも迂闊には入れないため様子見しかできなかった。
「こうなったら、自分たちで作るというのはどうかな。伊藤君が作れば人は集まるよね」
「ダメダメダメ、ダメですよそんなの。そんなね、なんの後ろ盾にもならない弱小チームが、いったい何になるんですか。いざというとき頼れるのは数なんですよ。数!」
相原は何としても俺たちを自分の所に入れたいらしい。
しかし、相原がトップじゃ、入ったところで足手まといにしかならないのは間違いない。
俺たちは赤ツメトロの京野たちが出店している店の前を通りかかった。
ちょっとした騒ぎになって、京野はチーム員に俺のことを紹介してくれる。
紹介された女性は綺麗どころばかりで、ここに入りたくなってくる。
しかし、男を入れる気はないらしく、勧誘はなかった。
それにしても何か買おうと思ってきたのに、高すぎて手が出ない。
熊本で出たという良さそうなサーベルがあったのだが、なぜか500万もする。
需要はなくとも売り手が値段を下げなければ、そんな値段になるのだ。
「はあ、アイテムも高いし、勧誘してるチームがどんな実績なのかさっぱりわかりませんね」
「いくら何でも金なさすぎるでしょ、伊藤さん。コブリンの奥にいるガーゴイルくらい倒してるんなら、革と心臓で稼いでるはずでしょ。ガーゴイルの黒革と黒鉄の矢だけでもかなり稼げますよ。まさかレッドクリスタルの買い占めとか、マジでやってるんですか」
生憎と俺が今現在やってる場所は、クリスタル以外がレアドロップのようなところだ。
それも、日本ではドロップが確認されていないマナクリスタルがほとんどである。
「いや、買い占めなんかやってないよ。それをやってるのは自衛隊だって噂だ。その割りに今日の講習会に強そうな人は見なかったな」
「自衛隊が買い占めたのなら、研究や治療目的なんじゃないのかね。希少なクリスタルをレベル上げに使ったとは考えにくいよ」
確かに有坂さんの言う通りである。
所詮は噂話ということだろうか。
「まあ、僕らくらいしかガーゴイルなんてやってられませんからね。マジックシールドのレベルが20はないと、火炎を防げないんですから」
「マジックシールドが20って凄いな。それしか使ってないレベルじゃないか」
「ええ、それしか使ってませんでしたよ。我々の中にそれだけを極めた者がいて、残り全員で魔弾か魔法を放ちます」
「魔弾のレベルは?」
「僕は22ですね。ちなみに伊藤さんはいくつですか」
「俺は13しかない」
「さすがバブリーな魔法持ちは違いますね。僕らはアイスダガーさえ最近になって手に入れたんですよ。普通はそれくらい大変なんです。ちなみに魔弾も20超えたあたりで敵に風穴が空くようになりました」
「すごいね。アイスダガーより強いんじゃないのかい」
「いやいや、それを有坂さんに言われると嫌味にしか聞こえませんよ。マジックアローのがよっぽど強いでしょ」
「だけど魔法は、自分がレベルアップしないと威力が成長しないからね」
よくよく話を聞いてみれば、魔弾で穴が開くのはガーゴイルの羽の部分だけで、そもそもマジックアローなら胴体に穴が開くそうだ。
そしてアイスダガーでは、なかなか致命傷といえるところまでは刺さらない。
敵はファイアーボールを使ってくるそうだが、たぶん骸骨くらいの強さだと思われる。
俺も魔弾を成長させることは考えたが、使いまくってもその程度なら、やはり魔法を選んでよかったと言えるだろう。
コストがないとはいえ、ダメージ効率が悪すぎる。
「だけどさ、それだとマジックシールドを最大で展開しなきゃならないだろ。かなりマナを使うんじゃないか。自分だけ霊力が上がらないって不満は出てこないのか」
「出てきますよ。でもそれは回復魔法も一緒だし、他の魔法も一緒ですよね」
相原の言い草を聞いていると、そもそも霊力を必要とするような戦い方をしていないから、魔力のステータスくらいしか気にしていないような感じである。
つまり霊力と魔装に頼って戦う前衛と、魔力に頼って戦う後衛があるはずなのに、後衛だけで戦っているような感じだ。
「なるほどな。それで最近は霊力を上げるために、槍で倒そうって話になってるのか」
「そうですね。それよりアイスランスを見せてはもらえないですかねえ。僕の魔弾とどう違うのか確認させてください」
「ここでかよ。無理言わないでくれ」
「じゃあ三人でガーゴイルを倒しに行きませんか。黒革が出たら伊藤さんにあげますよ」
面白そうだと思って、俺はその提案に乗った。
徒歩15分ほどでダンジョンに着いた。
まず最初の印象として、東京のダンジョンは非常に明るかった。
壁が薄く緑に発光しているため、全体的に視界が非常に良い。
しかし、さながら観光地のような賑わいに辟易する。
今日から解禁されたわけだから、こうなるのは仕方ない。
そんな中、相原は自信のある足取りで、俺たちを先導しつつどんどん歩いていく。
有坂さんも慣れた様子で、手探りな感じは全くない。
東京のダンジョンはどこも似たようなものなのだろう。
それにしても、東京のダンジョンは地下空間が広すぎる。
ほぼ360度に広がっていて、複雑に入り組んでいる。
これでは何を頼りに戻ってきたらいいのかわからない。
しばらく歩くと、コブリンが現れた。
そのゴブリンは相原が魔弾で転ばせると、まずは僕の魔法を見せようと有坂さんが言って、トリプルマジックアローを放った。
魔法の光線がうねりながら突進して、ゴブリンに三つの穴を空ける。
「やはり、我がチームにも、その魔法が欲しいですね」
「マナの消費が多いから、それほど優れているわけでもないよ」
「次は伊藤さんが倒してくださいよ」
ご要望通り、次のゴブリンは俺がナイフで首を狩った。
いくらなんでも、この辺りの奴に魔法を使うのはもったいない。
「まあ、そういう倒し方もありますよね」
「ガーゴイルはいつ出てくるんだ」
「もうすぐですよ。でもガーゴイルまでやるんですか。危なくないですかね」
さすがレベル21の体さばきだと、二人は俺の動きを褒めてくれた。
俺としては歩いて近寄りナイフを振っただけである。
しばらく歩くと、下へと続く階段があった。
降りたら、さっそくファイアーボールが飛んできた。
それを相原がかなり大きなマジックシールドで見事に防いで見せてくれる。
そして俺はアイスランスをガーゴイルに向けて放った。
「流石の威力だ。僕のマジックアローよりも威力があるように見えるね」
「レベルの恩恵でしょう」
「あー、こんな魔法があれば、二人のレベルにも納得ですよ」
まるで魔法を手に入れたことが全てのような言い草だが、最近の体たらくではそう言われても仕方ない。
そして、二匹目のガーゴイルは、俺がアイスダガー二発で倒す。
魔力の恩恵で、相原よりも三倍は威力がでていた。
「ここも人が多いな。いつもは相原たち以外いないんじゃなかったのか」
「そうなんですけどねえ」
「きっと、人が多すぎて、いつもはゴブリン狩りをしていた人たちが、こっちに来てるんじゃないかな。それよりも、これ以上奥に行くとレックスが出てくるよ」
俺は戦ってみたいとわがままを言って、ティラノサウルスを小さくしたようなモンスターが出てくるという奥へと二人を誘った。
生息域に入ると、有坂さんは崖を上り、相原は俺から離れる。
レックスは巨大なアゴを武器に、こちらにわらわらと寄ってきた。
俺は1匹目にアイスランス、2匹目と3匹目は一太刀で首を飛ばす。
そして4匹目を蹴飛ばして、その後ろからやってきた5匹目にぶち当てた。
バランスを立て直すうちに、有坂さんが一匹を魔法で葬り去る。
そして、ラスト一匹となったレックスは、相原の魔弾にバランスを崩したところで俺に斬り倒された。
強さとしてはハイゴブリンの方が、よっぽど手ごわいと言ったところだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。