第18話 大図書館
膨大な知識を手に入れた。
しかし、知識といっても映像として入ってくるため、情報にアクセスするにはいちいち読まなくてはならない。
自分の頭に質問をすると、文章で返してくれるような感覚である。
とりあえず気になっていたことを尋ねると、色々な疑問が解消された。
そしてダンジョンの意味を知った。
この世界にあるダンジョンは、別世界からやってきた城のようなものだ。
そして全てのダンジョンは、時空を超えて中で繋がっている。
どうしてこんなものが地球に現れたのかだけは、どこにも情報が無かった。
このダンジョンは、城であり宇宙船であるような何かだ。
それがばらばらになって、半分壊れたりしながら、地球に現れたらしいのだ。
モンスターは試練の遺物が壊れて、あふれ出したものである。
そして知りたくないことまで知ってしまった。
ダンジョンの中にある施設は、かなりの力を持ったものが数多く存在する。
特に危険な施設は、武器庫、研究所、大神殿あたりだろうか。
とてつもない力を持つ物ばかりで、放置しておけるレベルではない。
研究所には天候すら変えてしまう魔法があり、大神殿には地球を滅ぼすほどの力がある。
誰かが、それらを手に入れてしまったら、地球はそいつの思い通りだ。
というか、いつかは誰かがそれらを手に入れる。
手に入れた者に善意がなければ、まさにこの世の終わりである。
ダンジョン内にある施設の危険を誰かに知らせるにしても、信用できそうな人間がいるだろうか。
多くの人に知れ渡れば、それこそ悪意を持った者がダンジョン攻略を目指すだろう。
それをさせないためには、俺が施設の支配権を押さえるしかない。
最初に到達し施設を起動して権限を手に入れてしまえば、もはや誰も手は出せなくなる。
要するに、俺がこのダンジョンを最初にクリアすれば、すべて丸く収まるという事である。
そもそも、俺しか知らないのだから、誰もそれを知ることはなくなるのである。
大図書館の知識が使えるおかげで、アイテムや魔法の効果、地理に関するおおよその情報はある。
地理に関する知識はかなり変わってしまっている可能性も高いが、使える情報もある。
まあ難しいことを考えるのはあとにしよう。
とりあえず、俺は大図書館内にある宝箱を開ける権限を得たので、それらを開けてみることにした。
どちらにしろ金が要るし、ダンジョンを攻略するにしてもアイテムが必要になる。
ここにある宝箱は、最高レアのアイテムが出てくる可能性が最も高い宝箱が2つと、1ランク下の宝箱が1つである。
俺はまず1ランク下の宝箱を開けてみることにした。
変な動悸がしてくるが、ここで外したからといって攻略が遠のくだけで、何が起こるわけでもない。
出てきたのは、無限水瓶というアイテムだった。
悲しいかな俺の知識は、風呂の浴槽を持ち歩けるくらいの価値だと告げている。
大きさを自由に変えられて持ち運びできる浴槽であり、お湯を入れておけばそのまま風呂としても使える水筒だ。
砂漠に住む人なら買ってくれるかもしれないが、特に価値はないだろう。
しかし宝箱はまだ二つある。
次に出てきたのは、最も希少な部類のフロッティというナイフだった。
手にした者の時間の経過を遅らせ、切れ味の上がる加工が魔法によって施されている。
宝物ではなく武器であり、なかなかの逸品である。
もちろん鞘付きだった。
最後に出てきたのはテントだ。
大円天幕という、モンゴルとかで使われていそうなテントだ。
ダンジョンの中でも睡眠がとれるようになる、カモフラージュ機能付きのテントである。
売っても大した金にはなりそうにないが、役に立たないこともないだろう。
まあ武器も出たし、と自分を慰めるくらいのアイテムだった。
とりあえず魔法に対する抵抗値の高い賢者のローブを着て、ナイフを腰につけた。
天幕と水瓶はアイテムボックスに仕舞う。
今後の方針としては、地理的にも宝物庫を目指すのがいいだろう。
東京のダンジョンから行くのが一番の近道になるし、近いゆえに最も難易度が低い。
そして今の俺に必要なものが揃う可能性が高い。
とりあえず今日できることは、情報を整理することくらいしかなかった。
だからレベル上げも兼ねて、もう少し大図書館の奥へ進んでみようと思う。
それにしても猫目は売らなくてよかった。
こいつは動くものを目で追うのに適しているし、魔法のトラップも見つけやすくなる。
オーラのスキルは性能的に、やはりマジックバリアといったところだった。
身体全体を覆うマジックシールドである。
俺は大図書館の扉に鍵をかけた。
これで俺以外は中に入ることは出来ないし、力ずくで壊そうにも相当のレベルか、相当の宝物が必要になる。
ついでに防御壁の門も降ろしておいた。
俺はナイフでコボルト(本当はもっとめんどくさい名前)を倒しつつ先に進んだ。
ナイフの効果はすさまじく、スパンスパンと雑草を狩るみたいに首を刈り取って進める。
コボルトたちは俺の動きを追いきれてない反応だった。
渓谷のような地形の場所に出ると、スケルトンの上位版が出てくる。
肉がついていて急所が露出していないし、オーラのようなものに体全体が守られている。
上位スケルトンを前にして、最初は最高レベルに希少性があるナイフがあるし、なんとかなるだろうと思っていた。
しかし、こんなの相手に既に攻撃力が足りていない。
骨を斬り離せるほどの切れ味がないのだ。
これはレベルや剣術スキルもかなり重要なようである。
それに魔法も、もっと使い勝手のいいものがあるのかと思ったが、魔法の一覧を見る限り、アイスランスはかなり使いやすく万能な部類である。
雑に流し読んだ程度だが、これ以上に使いやすそうな魔法はあまりなさそうなのだ。
これで力不足と感じるなら、俺のレベルが足りて無いという事になる。
ダンジョンを攻略しようと思ったら、地道なレベル上げもかなり必要になりそうだ。
せっかく最高レベルのレアアイテムを手に入れたというのに、こんなところで攻撃力不足を嘆く羽目になるとは悲しい話である。
レベルも必要だが、これはもっと強烈な装備も必要になるという事でもある。
それだけではない。
パーティーメンバーも必要である。
どう考えても俺一人では無理だし、誰か信用できる奴の助けを借りる必要がある。
とりあえず一人は蘭華でいいだろう。
アイツは昔から知っているが、ここの施設を悪用するほど悪い人間ではない。
しかし、蘭華以外にそこまで信用できる人間を俺は知らない。
それに蘭華が協力するかも疑問である。
まあ、金に汚いだろうから、儲かると騙せば引き込むこと自体は難しくない気がする。
しかし、アイツはこっちの魂胆に気が付くのも早そうなのが少し問題だ。
とりあえず、スピードを生かして狩れるだけ骸骨を狩って回った。
相手の周りをまわりながら、脊椎をナイフの切っ先でコツコツつついて斬り離す。
それで動きが悪くなるから、あばらの隙間から心臓にある弱点を一突きにして終わりだ。
やってるうちに、切るよりも砕いたほうが楽なのだと気が付いた。
そもそもナイフという武器との相性が悪い。
上位骸骨のドロップはオレンジクリスタルと武器防具だった。
嬉しいことにベルトのようなものまで出た。
ボクシングのヘッドギアみたいな不格好なものも出たが、もはや岩を全力で殴っても血が出るかどうかといったところで必要性が感じられない。
転んだくらいじゃ頭を打っても、かすり傷すら負わないような気がする。
これは蘭華にあげてしまってもいいだろう。
アイテムボックスが8割ほど埋まったところで、俺は引き返すことにした。
せっかく賢者のローブがあるのだから、魔法を使ってくる敵の相手もしたかったが、魔光受量値が限界近く来てしまったので引き返すよりほかにない。
ダンジョンで出る装備には魔光を防ぐ力もあるが、敵を倒してしまうと魔力を吸い取るために魔光を受け入れてしまうのだ。
レベルが上がりやすい低レベルのうちは、どうあがいても長居は出来ない。
俺はナイフ片手に走ってダンジョンを抜け出した。
持ち続けなければ効果を発揮しないというのが、このアイテムの難点である。
腕輪か何かで同等の効果があるものが欲しいところだ。
ダンジョンを抜け出して、身に着けていたものをアイテムボックスに移した。
それで家に入ると、蘭華が俺のことを待ち構えていた。
上下タイツ姿で外から帰ってきたことには触れもせず、いきなり蘭華は怒り始めた。
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