第7話 収入



 魔弾をぶつけてバランスを崩し、相手が立て直すよりも早く両手剣を振り下ろす。

 攻撃を受けることは恐れない。

 回復アイテムは十分に持っているのだ。


 一心不乱に骸骨と戯れ始めて何時間が経過しただろうか。

 ダンジョンに入ったのが朝の7時ぐらいだったことは覚えている。

 レベルがさらに上がったことで、骸骨の動きにもついていけるようになってきた。


 どのステータスが俺の身体能力を上げているのか知らないが、今のステータスはこんな風になっている。



伊藤 剣治

レベル 8

体力 102/178

マナ 34/154

魔力 38

魔装 46

霊力 3528

魔弾(8) 魔盾(6) 剣術(5) オーラ(5)

アイスダガー

魔光受量値 1942



 装備も鉄の鎧と革の手袋、革のブーツになっていた。

 他にも槍やらメイスやらと出ているが、持ち切れないため一ヶ所にまとめておいてある。

 骸骨剣士から出る装備は、どれも使い込まれたかのようにボロボロだが、すぐに壊れて使えなくなるというようなことはない。


 ドロップ率は30分に一つか二つといったところで、なにも出ない事の方が多い。

 俺が本当に欲しい片手剣が出るまで粘ろうと思ったが、魔光受量値を見るかぎりもう帰った方がいいだろう。

 俺は荷物を一つにまとめて、来た道を引き返した。


 リポップしたのか魔物が多少出て、いくらか時間がかかってしまった。

 家に付いたのは夕方くらいだった。

 そしてまた、風呂に入って着替えたら朝まで爆睡した。


 眠りから覚めると、大量の睡眠をとったからか、わりとマシな気分だった。

 しかし今日一日はまともに動けないだろう。

 実際、昼にはすさまじい痛みで横になっているしかなくなった。


 その間にネットを使って色々調べる。

 ネットではアイテムの買取が活発になっていた。

 スキルストーンやマジックスクロールについても、それなりの情報が見られるようになった。


 やはり回復系のアイテムを求める声が多い。

 俺としても、もう少し欲しいところである。

 それに、どんなものでもいいから服も欲しい。

 普通の服だとダンジョンに着ていくだけでもかなり劣化が進むようなのである。


 換えの服が沢山あるわけでもないから、これはかなり切実な問題である。

 世間ではまだ、ダンジョンについてどうすべきか結論が定まっていないようであった。

 俺のような経験者たちは、だいたい「攻略すればいい」という結論である。


 今のところ、一番攻略が進んでいるであろう俺でさえ、オークなんか相手にしたら踏み潰されて終わりである。

 なんせヒョロヒョロの骨でさえ、激しいチャンバラの末にやっとこさ勝てるといった具合なのだ。


 そんな体たらくなのに、半日も横になっていたら、早く転げまわりながら命がけの戦いがしたいという欲求が抑えきれなくなってきた。

 今にもダンジョンに飛び込んでいってしまいそうだ。


 テレビではどこも地下にできた大空洞に関する番組ばかりだった。

 やっと、テレビのコメンテーターからダンジョンを攻略しようという意見が出始めたところである。

 ダンジョンでは、これまでの科学では解明できないさまざまな物質が見つかっている。


 人類に有用なものも多く、つい最近も大学教授の集まりが、ダンジョンを研究したほうが文明は進化すると発表した。

 そして調査隊が発見した結晶は、凄まじいエネルギーを持っており、軍事転用も可能であるとして、俺が昨日拾った結晶そっくりのものがテレビに映し出されていた。


 だから武器の携帯を義務付けて、ダンジョンを開放すべきという意見が出始めたのである。

 夕方頃になると動けるようになったので、俺は迷宮アイテムの買取と販売をしてくれる人物をネットで探した。

 割とすぐに見つかって、数駅隣の駅で待ち合わせることになった。


 駅の待ち合わせに来たのは、背格好の小さな女の子だった。

 その女の子は村上と名乗った。


「ままままさか……、こ、これ全部、迷宮のモンスターからドロップした品ですか」

「まあね。荷台にあるのは俺に必要のないヤツだから、全部買い取ってくれないかな」

「い、今は武器関係の需要が多いですから、凄い額になりますよ」

「まあ、そうだろうね」


 今の相場だとこれくらいになります、と提示された額は蕎麦屋なんかやってるのが馬鹿らしくなるくらいの額だった。

 総額280万である。


「やっぱり栃木の南にある入り口から入ってるんですよね? 東京はもう、どこも警備の目を掻いくぐるのが大変になってますよ」


 密猟かよとも思うが、アイテムがこれほどの値段になるのならわからなくもない。

 栃木県には東京の地下にできたダンジョンに通じているであろう入り口がいくつかある。

 俺は答えにくい話題を変えることにした。


「それよりも、スキルストーンとスペルスクロールは持ってきてくれたかな」

「あっ、あります。でも、かなりお高いですよ。それとダンジョンの素材で作った服と、ナイフのシースでしたよね。それもありますよ」


 服とシースで80万を提示された。

 どちらもゴブリンの素材から彼女が作ったもので、数がないという事だった。


 彼女が持ってきたスキルは刀、斧、剣、盾で、スペルの方はファイアーボールだ。

 正直、どれも欲しいという感じはしない。

 ファイアーボールは範囲魔法になるのだが、リキャストタイムがアイスダガーより長くて威力が低いからネットでの評判はよろしくない。


 しかし、何かしら使い道はあるかもしれないし、アイスダガーが効かない敵もいるだろう。

 俺は骸骨から出た剣術、槍、弓の石を売り、ファイアーボールを買うことにした。

 村上さんは、三つも売っていただけるのですねと恐縮していた。


 しかし、手持ちの資金がないため、秘蔵していたアイテムボックスのスキルストーンにファイアーボールを付けるから、それで交換してほしいということになった。

 あまりに凄い名前が出てきたので、俺の方が驚くと、アイテムボックスはスライムがよく落とすありふれた石らしい。


 最終的にはアイテムボックス、ファイアーボール、180万が俺の受け取りである。

 その後で喫茶店に入り情報交換をしたが、どのモンスターが武器を落とすのかしつこく聞かれたので、逃げるようにして別れるハメになった。


 それだけは何としても教えるわけにはいかない。

 村上さんの話では、ゴブリンが落とすのはナイフ、ショートソード、棍棒、弓、それに短い槍くらいらしく、鉄の鎧や両手剣、盾、フルサイズの槍などは初めて見たという。

 後日、俺が売った盾はとんでもない値段で落札されたと聞かされることになる。


 俺は180万という見たこともないような大金を手にしてホクホクだった。

 帰りにはダンジョンの攻略に必要そうな物と、携帯食料などを買って帰った。

 ダンジョンは素晴らしい体験を与えてくれるだけじゃなく、金にもなる。


 今日の戦利品は、服とナイフのシース、おまけでくれたベルト、それにアイテムボックスとファイアーボールである。

 すでに魔法とスキルは習得済みだ。


 アイテムボックスは色々と現在の価値観を壊しそうだが、ダンジョンから出たものしか入れられないという制限がある。

 聞いた話の中で一つ気になったのは、東京にできたダンジョンでは低層階で回復のクリスタルを滅多に落とさないという事だ。

 それだと攻略を進めるのに、かなりのリスクが生じるのではないかという気がする。


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