第6話 骸骨戦士



 丸一日寝込んで、やっと魔光受量値が二桁まで下がった。

 寝て起きたら魔装の値が36まで上がっている。

 やはりこの苦しみは、体が魔力のようなものに耐えられる体へと創りかえられているのだろう。


 寝ている間に、無断で地下空洞内に降りた民間人が、炭になっているのを調査団に発見されるという事件が起きていた。

 たぶん俺のジャンバーのように、魔力に当てられすぎると体が存在できなくなってしまうのだ。


 今、日本で起きていることは世界各地でも起こっている。

 そして地下空洞に降りようとする民間人は後を絶たない。

 俺が寝ている間にはついに政府も、調査団を作ったようである。


 地下空洞からの物資なしに、安全は守れないという意見が声高に主張されていることもあって、政府は決死隊の様な悲壮感のある調査団を作って送り込んだ。

 ダンジョン魔物にはダンジョンの武器しか通用しないことは皆の知るところだ。

 彼らはまるでゲームのようだという調査結果を残した。


 ネットにはスライムやゴブリンを倒したという報告が上がっていたようだが、最初期にダンジョンに降りた人たちは魔光によって寝込んでいるのか、報告の続きはない。

 俺が持ち帰った気味の悪い肉片は、ネットで調べてみたところ、肝臓という部位であることがわかった。


 つまり肝である。カエルの肝が何かに効くという記載は見つけられなかったので、たぶん精力か何かの象徴であると思われる。

 ドロップ品の肉片は薄い膜に覆われて、艶々と光っていた。


 俺はさっそく食べてみようと膜を破り取り出して、フライパンに放り込み火にかけた。

 なぜそんな無茶をするのかといえば、きっと魔力に耐えられる体を作るのに、必要な要素だと思うからだ。


 ネットではすでにスライムゼリーを食べた者もいて、体の調子がよくなったと書き込んでいるのを目にしたこともある。

 7つも焼いたらかなりの量だが、体調の悪かった間、ろくに食べられなかったのでちょうどいい。


 塩コショウで味付けして適当に食べたら、信じられない程に美味かった。

 油がもの凄く美味しくて、トロっとした触感がすっと消えて、体にしみこんでいくかのようだ。

 身体に黒いパワーがみなぎってきたので、たぶんマナを回復してくれるアイテムではないかという気がする。


 これは今食べてももったいなさそうなので、タッパーに移した。

 次にダンジョンに行くときに持っていくことにしよう。

 仕方がないので、かわりにそばがきを作って食べた。


 ネットでは素材の買取なんてものをやっている人も見かけるようになった。

 俺はまだ見たこともないが、そんなものが出ることもあるということだ。

 ゴブリンがよく布切れや、革の切れ端といった素材を落とすという話である。


 着ているものが、ほんの少しダメージを負っただけで崩れ去るというのも困りものだ。

 すぐ使いたいアイテムを入れておく場所がないし、どんな服も使い捨てになるから、もったいないにもほどがある。

 ダンジョン産の素材で作られた服の売りがあるのなら、ぜひとも買いたいところである。


 ネットで見かけるモンスターの情報は地域によってある程度のまとまりがあるのだが、裏庭のダンジョンに関しては、それらのどのダンジョンとも一致しない。

 カエルやウルフといったモンスターの情報は、海外からまばらに入ってくるといった程度で、国内情報は全くない。


 モンスターの種類から見れば、日本全国で4種類程度のダンジョンしかないようである。

 スライムとゴブリンが出てくるのは東京周辺にできたダンジョンだけで、名古屋周辺にできたダンジョンにはコウモリとアリしか出ない。

 そして九州はタコのような奴が出る。

 だから地上に現れた入り口は、その一帯にできたものと中でつながっているのだろう。


 どういうわけか俺の家の裏庭にあるダンジョンが繋がっていそうな入り口は、日本全国どこにもありそうにないのである。

 位置的にも浮いているので、本当に独立している可能性がある。

 そしてダンジョンの中で最も危険度が高そうなのが、北海道にできたオーク砦の下にあるダンジョンであろう。


 オーク砦の中では、ビルほどの大きさもあるトロールの存在が確認されたという。それだけで、その入り口の大きさからしてとんでもない。

 現在は自衛隊のヘリでも近づくことが出来ず、衛星写真からではダンジョン入り口の正確な大きさまではわかっていない。


 俺は魔光受量値が完全にゼロになるまで待ってから、食べ物と道具をザックに詰めてダンジョンに降りた。

 まずは目を馴らすために、ライトを消して動かずにじっとしている。

 しばらくその状態でいたら、光る石の欠片を手に持ってダンジョン探索を始めた。


 夏だというのに地下は少し肌寒いが、少し動いたら寒さは気にならなくなった。

 俺は抜き身のナイフ片手に、手当たり次第にイボガエルを倒しながら進んだ。

 今回はナイフがあるから、マジックシールドとナイフだけで簡単に始末できる。


 魔弾はマナの消費がないが、シールドの方は、作り出すシールドの大きさに合わせてマナが減る。

 身体全体を覆えるようなものを出せば14もマナが消費された。


 それにしても本当にゲームのようなシステムである。

 命がけでやってることは間違いないのに、なんとも引き締まらない。

 カエルを10匹と、オオカミを3匹ほど倒したところでレベルが6に上がった。


 今回はマジックシールドを使ったことで、二回ほどマナが尽きている。そのたびにカエルの肝を食べて回復している。3個も食べれば満タンになった。

 そして、今日はクリスタルを使うようなケガは一度もない。


 ここまでのドロップは回復クリスタル5個と肝6個、それにウルフからドロップした巻物である。

 休憩ついでに巻物を開けてみると、なんだかよくわからない文字が書き込まれていた。

 魔力を流すと魔法の巻物だという事が何となくわかる。そして、なんとなく使おうと意識しただけで巻物は効果を発揮した。


 ステータスにアイスダガーがプラスされている。

 本当にふざけているなと思いながら、三角の石を取り出して魔力を流してみた。

 どうやらこちらは剣術とオーラが習得できるようである。


 その場で両方とも習得しておいた。

 魔法の方は数字がついていなかったのに、剣術とオーラには熟練度のような数字がついていた。


 いったいいくつが習得レベルの上限なのかわからないが、俺の魔弾は既に4になっている。マナを消費しないのをいいことに、こればかり使っているからである。

 試しにアイスダガーと念じてみたら手裏剣サイズの氷の塊が打ち出された。

 消費マナは4である。


 実戦で使ってみると、ウルフのシールドを貫通してダメージを与えることができた。

 使い勝手としては、貫通力のある魔弾といったところだろうか。

 氷だからといって、相手が凍ったり動きが遅くなったりという事はない。


 その後は、カエルの肝を生で食べながらマナを補給しつつ敵を倒して、さらなる洞窟の奥を目指した。

 魔光受量値には気を付けているが、思ったよりも上がり方が穏やかで、4時間は経過しているのに200ちょっとというところである。


 さらなる敵を探して足早に移動していると、どういうわけか足元の岩が気になった。

 なんだろうか。岩から結晶のようなものが付き出ているのだが、もの凄く強い魔力が感じられるのだ。


 なんとなく価値があるものの様な気がして、俺はそれを地面から外すとザックの中に仕舞った。

 そして獲物探しに戻る。

 途中、オオカミが3匹ほど出た。

 しばらく進むと、足元が急にグラウンドみたいに整地された地面に変わった。


 そして骸骨剣士が、とつぜん暗闇の中から踊り出してきたのである。

 振り下ろされた剣をマジックシールドで受けるが、シールドは砕け散って俺の右手首に深々と剣が突き刺さった。


 俺は怯まずに前に出て、ナイフを頭蓋骨に突き刺している。

 剣術のスキルを習得して以来、ナイフの切れ味が上がっている。それにオーラのおかげで体が強化されているのもわかる。

 しかし、俺は骸骨野郎に腹を蹴られて地面の上を転がった。


 起き上がろうとすると、骸骨剣士が俺に向かって飛びかかってくるところだった。

 魔弾を放ってバランスを崩させ、なんとか脇に転がって振り下ろされた剣をかわした。

 ヤバすぎる相手だ。


 動きが早くて、攻撃に躊躇がない。

 しかも休みなく次々と攻撃を仕掛けてくる。

 無理にナイフで攻撃を受けたら、すっぽ抜けたナイフはどこかに飛んで行ってしまった。

 俺は回復クリスタルを砕き、逃げながらアイスダガーをマナが尽きるまで放った。


 それでどうにか骸骨剣士の動きを止めることに成功した。

 落ちたナイフを回収して、ドロップの盾を拾う。

 骸骨剣士は錆びた両手剣しか持っていなかったのに、ドロップは盾である。


 それにしても、もう少しリーチのある武器が欲しい。

 この骸骨剣士を倒していれば、いつかはまともな武器を落としそうな予感がある。

 そんなことを考えているうちに、今度は弓を持った骸骨戦士が現れた。


 俺は盾を構えて、新たに現れた骸骨に向かって突進する。

 相手は三本の矢を放った後に、ショートソードに持ち替えて、俺を迎え撃つ体制をとった。

 俺は構わず盾を構えたままタックルを食らわせて、逆手に持ったナイフを頭蓋骨に突き立てまくった。


 腹に燃えた火箸を突っ込まれたような感触を覚えるが、ポケットから取り出した回復クリスタルを噛み砕いて傷口を塞ぎ、さらにナイフで突きまくる。

 かくして俺は、両手剣を手に入れた。


 薄っぺらなくせにかなり重たいが、振れないこともないといったところだ。

 刃はボロボロで切れ味は全く期待できない。

 俺は盾を背中に背負って、両手で剣を持つ。

 乗ってきた俺は、さあ次の獲物はどいつだと、暗闇に向かって駆け出した。


 この時は気が付いてなかったが、この戦いでレベルアップをしたことから、かなり魔光受量値が増えていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る