第4話 激闘


 俺は地面に散らばっていた荷物を集めて、鋭い角を持つ石ころを一つ拾い上げた。

 イボガエルの魔弾を受けて砕けた石の破片である。

 石器ナイフのような見た目をしていて、使い勝手が良さそうだった。

 俺はその石器を石ころ丸と名付けようとか、馬鹿なことを考えながらポケットにしまった。


 懐中電灯はスイッチを切ってしまうことにした。

 目が慣れてきたのもあるが、なぜかぼんやりと発光している岩の光だけでも進めそうだったからだ。その光る石を一つ持っていくことにする。

 懐中電灯ではあまりにも明るすぎて敵に見つかりやすくなってしまうのがまずい。


 次のイボガエルは簡単に見つけることができた。

 いきなり飛ばしてきた魔弾を腕でガードするが、さっきよりもダメージが低いように感じられる。とても肩が外れるような衝撃ではなかった。


 これなら急所に当たっても命に関わるほどじゃない。

 魔弾を使った殴り合いのようになりつつ、なんとか二匹目のイボガエルを倒した。

 気持ちの悪い肉片のようなものを落としたが、これはリュックサックの中に仕舞っておいた。


 その後もイボガエル狩りを続ける。

 奴らは暗がりを好むのか、こんな洞窟の中でさえ岩の陰など目立たないところに入り込んでいる。

 そして俺が通りかかたところを、魔弾で狙ってくるのだ。


 もう少し威力の出る魔弾を撃ちだせやしないかと試行錯誤しているうちに、俺はあることに気が付いた。

 別に魔弾と念じなくても、ちゃんとイメージ出来ていれば黒い玉は発射されるのである。

 魔弾という言葉で、有名なアニメで見たイメージを喚起させているだけなのだ。


 まわりから集めた気を放つというイメージである。

 試しに、まわりから集めた気をコブシに集める、というイメージをしてみたがうまくはいかなかった。

 なぜか撃ち出すイメージしか上手く行かない。


 どのくらいイボガエル狩りを続けただろうか。

 もはや一撃で倒せる程には楽になってきた。

 そして、ここに居るカエルたちは何かから身を隠すために、岩陰に潜んでいるのではないかという気がしてくる。


 そしてイボガエルを15匹も倒したころ、一匹の白オオカミを見つけた。

 臆病になることも大切だとはわかっているが、なんだかよくわからない怒りのようなものに突き動かされていた俺は、隠れていた岩陰から飛び出して、おいっと叫んだ。


 白オオカミはビクリと飛び跳ねてこちら側に振り返る。

 その顔面を殴りつけるかのように魔弾を叩き込んだ。

 ギャンと鳴いてオオカミは後ろに離れるが、俺は追い打ちをかける手を止めずに二発目の魔弾を放った。


 命中。

 それでもオオカミはぶ厚い毛皮に守られているのかダメージが少ない。

 俺はポケットに手を突っ込んで、さっき拾った妖刀-”石ころ丸”の出番かなと考えた。


 その時、オオカミが遠吠えのような仕草に入ろうとしたのを見て、仲間でも呼ばれたらたまらないと全力の体当たりをかましてやった。

 とたんに毛皮を着た奴に体当たりしたとは思えないほどの硬質な衝撃を受けて俺は弾き飛ばされる。


 頭を打ったのか、足に力が入らない。

 なにかがおかしい。

 俺は体制を立て直すと、もう一度魔弾を撃ちながら突っ込んだ。


 遠吠えのような仕草が見えた瞬間、ガラスの様な輝きにさえぎられて、今度は硬質な感触にぶつかった。

 なにか、魔弾のような魔力操作をやられているというのはすぐに分かった。


 かなり強度の高いガラスの様なものを呼び出せるらしい。

 ならばと、俺はもう一度突っ込んで、わざとシールドのようなものを作らせ、そこに石ころ丸を叩き込んだ。


 硬度の高い石ころの一点攻撃は、見事オオカミのシールドを打ち破った。

 逃げようとするオオカミの尻尾を掴み、凄い力で振り回されながらも魔弾を放つ。

 魔弾が当たっても、このオオカミにはダメージが少ない。


 吹き飛ばされて岩に叩きつけられたところで、俺はポケットの中の赤いクリスタを握り潰して回復する。

 そして距離をとって睨み合ったところで、オオカミの後ろからもう一匹、同じような白オオカミが出てくるのを見た。


 上等だと逆上した俺は、もう一度石ころ丸を構えて突っ込んだ。

 破り方をおぼえたシールドはもう通用しない。

 こちらはシールドを叩き割って、相手の鼻先を狙って魔弾を撃ち込むだけだ。


 動きが素早くて、少しでも距離があると魔弾はかすりもしなくなる。

 だから必死で追いかけまわしながら、これでもかというほど魔弾を食らわせてやった。

 そしてついに、オオカミの鼻先に魔弾が命中して、敵が地面を転げまわっているところに、石ころ丸渾身の一撃が頭蓋骨へと入った。


 確かな手ごたえと共に、白オオカミは煙に消えて一本のナイフへと変わった。

 それを拾い上げた俺は、残った一匹を仕留めにかかる。

 ナイフは恐ろしく便利な道具であった。

 軽く突いただけで、たやすくシールドを突き破った。


 左手でオオカミの毛皮を掴むと、抵抗して俺の腕に噛みついてきたので、俺はナイフでオオカミの腹を突き刺し、切り裂いて絶命させた。

 ザックから回復結晶を二つ取り出して噛まれた左腕を回復する。


 ちょうど二つの石を砕いたら、綺麗に傷口が塞がった。

 血を流したせいで多少ふらふらするから、もう一つくらい砕いておいた方がいいのかもしれない。

 立ち去ろうと思い地面を確認すると、二匹目のオオカミはおにぎり型の石ころに変わっていた。


 カエルからも同じようなものが出ているから、三角の石ころは、これで二つ目である。

 俺は少し具合が悪くなってきたので、ダンジョンから出ることにした。

 地下では光る岩の形が独特なので、来た道は覚えやすい。


 ふらふらと歩いていたら、すぐに家の裏庭へと出ることができた。

 朝日に照らされた我が家を目にしたときは、それ以上ないほどほっとした。

 そして荷物を玄関に放り出すと、自分の部屋に戻る気力もなく、そのまま玄関のあがり口に横になって寝てしまった。




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