もう少しだったのに

 その警察官は迷路の様な山の中を歩いていた。捜索隊である。行方不明になった若い女性が、この山で最後に目撃されたので山狩りをしているのだ。

「先輩、ここ空き地みたいですね」

 不意に、一緒に捜していた後輩が言うので顔を上げる。言われてみれば、山の中だと言うのに、この前までそこに家でも建っていたような開けた場所がある。そこに、人の足跡のようなものを見付けて、彼は眉を寄せた。

「これは、足跡か? たどってみるか」

 無線で足跡のようなものがあった旨を告げると、二人はその跡を辿った。「家」の中をまっすぐに突っ切るようにして歩いた……いや、これは走った? 走った様な足跡は、その向こうの茂みに続いている。この中で倒れているのだろうか。思わず足が速まった。

「危ない!」

 後輩に腕を引かれてはっとした。そこで彼は、その先が崖になっていたことを知った。止めてもらわなくては落ちていたに違いない。後輩に礼を言おうとしたその時、女の声がどこからともなく彼の耳に囁いた。


「もう少しだったのに」

(空き地、崖、迷路)

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