ベイビー・クライング
その廃ビルでは赤ん坊の泣き声がするという噂が流れている。盛りのついた猫だと思っていたが、季節問わずに聞こえるそうなので、警察に通報が入った。駆けつけた警察官がビルを捜索したが、誰も見つからなかった。声は捜索中も聞こえていたらしい。
ある日、数度目の通報がされた。駆けつけたのは、過去もこの廃ビルを捜索している巡査長で、今度こそ赤ん坊を見付けてやるぞと意気込んでいる。
複数回鳴き声が聞かれているところを見ると、放置されている訳ではないだろう。おそらくは、泣き止まない赤ん坊のための、風変わりな散歩先、と言うだけかもしれない。だが、近隣住民の不安が募っているのは間違いないので、可能ならちゃんと話した上で子育てサポートなどに繋げて行きたいと思っている。
「誰かいますか?」
彼は声を張り上げながら声の主を探していく。今までもそうだったが、上階から聞こえると思って階段を上がると、今度は下の階から聞こえる。
「床の間とかじゃないよな……」
彼は自分の想像に身震いしながら、ライトを廊下の床に向けた。廃墟なので、その床は当然汚れている。注意深く床の様子を観察しながら進んで行くと……やがて、楕円形の大きな染みに行き当たった。それは外から着いた汚れではなく、内側から染み出たものの様に思える。赤ん坊の声はそこから聞こえている、ような気がした。
それを見た瞬間、脳裏に閃いた仮説に彼は震えた。そんなことがあってたまるか。彼は下に引き返す。さっきの染みのすぐ下。天井に懐中電灯を向けた。するとどうだろう。そこは天井の板が割れていた。
脚立がないのを言い訳にして、彼はパトカーに戻った。警察署に応援を要請する。件の天井の裏が捜索された。
そこには、生後数ヶ月とおぼしき赤ん坊のミイラが、むずかるような姿勢で放置されていた。
(ビル、赤ちゃん、ドア)(ドアだけ使い損ねた)
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