人柱

 花火大会があった。その近くには新築のマンションが建っていて、そこの住人たちは特等席だと言わんばかりにベランダや屋上、敷地から夜空を見上げている。事実、このマンションの売りの一つは、花火を近くで見られることでもあった。


 一人の少年が、駐車場から家族と一緒に花火を見ている。彼はふと視線を感じて振り返った。背後のマンションの壁面に伸びている影の数を何気なく数えると、一人多い。もしかしたら、見えない幽霊の影が映っているのかもしれない。彼は両親に、この中に幽霊がいると訴えたが、当然ながら両親はそれを真に受けない。何を言ってるのと一蹴した。


 しかし翌日、彼はそれが影ではないことに気づいた。シミだったのだ。自分と同じくらいの大きさで、人の形だ。怖くなって、少年はまた両親に告げたが、梅雨時の雨でシミができたのだろうと取り合わない。


 やがて、少年はそのシミが自分を呼ぶようになったと両親に言った。あまりにも一つのシミについておかしなことを言うので、両親は管理会社に連絡した。


 管理会社も建設会社も首をひねっていた。そんなシミになるような材質は使っていないはずだと。しかし、現場でそのシミを見るや彼らは青くなり、すぐにその部分を崩す工事を始めた。


 子供の白骨が発見された。


 ただし、調べたところそれは数百年前のもので、一体いつ、誰が、なんの目的でここに入れたのかはわからないままだった。


 その骨を出してしまってから、密かにされていた手抜き工事の弊害が次々と出始め、今ではそのマンションは廃墟となっている。

(花火、マンション、シミ)

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