秒針の報せ
森の中で死体が見つかったらしい。
と、言うのも白々しいだろう。自分がやったのだから。
冷たい土の中から出てきたそれは、すっかり骨だけになっていて、ぼろ布と化したセーターとブラウス、腕時計だけが体に残っていたそうだ。
あの腕時計は、僕が誕生日に贈ったもの。あの日も彼女は付けていた。秒針が少し独特で、カチカチ、よりもカツカツに近い音がする。夜中に目が覚めるとあなたを思い出す、とはにかんで言われたものだ。
そんな二人だったのに、どうしてあんなことになってしまったのやら。ニュースを見ながらぼんやりと考える。その内、警察が来るだろう。刑事ドラマなんか見ていると、科学捜査ですぐに犯人を見付けられるらしいから。
少しだけ胸騒ぎがした。人を殺めておいて、何を今更、という感じだけど、その時僕は漠然とした胸騒ぎ……不快感に近いものを感じていた。虫の知らせとでも言うのだろうか。誰のどんな危機を知らせているのやら。
少しずつ、身辺整理をしないといけない。今日はもう寝よう。僕はテレビと電気を消して布団に入った。
真夜中に、っふっと目が覚めた。
時計の秒針が小さく音を立てている。チッチッと、密やかに息をするかのようだった。
ぼんやりとその音を聞いている内に、違和感を覚え始める。なんだろう、何かがおかしい。
カツカツ。
ずっと昔に聞いた秒針の音になっている。僕は鳥肌が立って、布団から跳ね起きた。
警察が、白骨事件の容疑者のアパートを訪ねると、彼は留守であった。しかし、大家の話によれば、ここ数日外出していないとのこと。刑事たちは、大家立ち会いの下で鍵を開けると、彼の部屋に上がり込んだ。
彼は布団の上で仰向けになって死んでいた。よほど恐ろしいものでも見たのだろうか、その目は見開かれ、口はこじ開けられたかの様にばっくりと開いている。
そうして、部屋にある時計という時計が全て割られていた。目覚まし時計、壁掛け時計、スマートフォン、本人の物であろう腕時計。
一つだけ、無事な時計があった。刑事たちはそれに見覚えがある。
白骨が身につけていた時計だった。
カツカツと音を立てて、それだけがこの部屋で時を刻んでいる。
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