カスケードボックス

 雨が唐突に降り始めて、歩道を呑気に歩いていた俺は慌てた。木の下に飛び込むが、雨足は次第に強くなってしのぎきれない。そんな時に、煌々と輝くガラスの箱が目に付いた。

 電話ボックスだ。

 このご時世にまだ公衆電話が生き残っていたことに感謝しながら、俺はその中に飛び込んだ。降り方はにわか雨っぽいので、しばらくすればやむだろう。

 ザー、よりも、ボーだとか、ドーと表現したくなる雨音を聞く。外を水が伝って行って、まるで滝の中にいるかのようだ。外は光しかわからない。ヘッドライトが光の輪を揺らしながら通り過ぎて行く。

 ……この雨、やむだろうか。俺はふと、そんな不安に駆られた。

 その時だった。公衆電話が唐突に鳴り出した。びっくりしすぎて、俺は飛びすさって背中を壁にぶつける。公衆電話が鳴るなんて、刑事ドラマの誘拐事件のシーンでしかみたことがない。これは誘拐犯からの電話なのか?

 どうしよう、俺が出ても良いものか。しかし、誘拐事件なら多分親が飛んできて俺を引きずり出すはずなので、多分大丈夫なのだろう。いや、そもそも俺宛てでないことは確かなので、俺が出る義理もない。やかましいし気には鳴るけど放っておこう。

 しかし、電話は鳴り続けるばかりだった。まるで、ここに人がいることをわかっているかのように、切れる気配がない。

「もしもし?」

 単調にやかましく続く音に耐えられなくなって、俺は受話器を取った。しかし、返事はない。その代わりとでも言おうか、カチカチカチと、固いもの同士をぶつける音がする。カスタネットに似てるが少し違うような。

「もしもし?」

 カチカチはまだ続いている。やがて、電話は切れた。何だったんだ。受話器を置いて、外を見る。雨はまだ降っていた。

 その時だった。細くて硬いものが電話ボックスを叩く音がして、俺は飛び上がった。振り返ると、なにか白いものがボックスに張り付いて、キツツキみたいにカチカチと叩いている。流れる水でよく見えない。

 だが、すぐに雨足が弱まって、流れる水が減り、外が見えるようになる。

 骸骨が歯をカチカチいわせながら、電話ボックスに張り付いていた。

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