第4話 君が男子でもキュンは止まらない。

 早乙女厳蔵さおとめごんぞうこと、女装男子ゴンちゃんはひどく落ち込んでいた。俺はそんな彼の肩を優しく叩いて慰める。


「大丈夫だよ、ゴンちゃん。俺がいるから」

「ちっ。触んな、ゴリラ! お前がいるのが問題なんだろうがっ」


 実はゴンちゃん。女子に告白して六連敗しちゃったのだ。

 最初は同じクラスの女子。次は隣のクラス。その次は二年の先輩。

 そして、三年の先輩に、産休明けの先生にまで告白した。


「全敗するとは思わなかったぜ。なんだよ、ちくしょう」


 すっかり自信喪失しているゴンちゃん。

 でも、そんなにガッカリすることないんだよ。

 さっきも言ったように、君には俺という魂のつながりを得た伴侶が、


「だーかーら! お前に付きまとわれないために彼女作ろうとしたのっ。女好きを証明したかったのっ。あーもう、なんだよ。あいつら全員、俺よりブスのくせに」


 プンプンが止まらないゴンちゃん。ゴンちゃんの前では、どんな女性も霞んでしまう。だから言ってるでしょ。君は誰より美しいって。


「わかっとるわっ。お前に言われるまでもない!」


 くそーっと、怒りが収まらないらしい。


「こうなりゃ、最終手段に出るしかねーようだな」


 え、何を考えてるの?


「ふんだ。俺が本気だせば、どんな女も落とせるぜ」


 ゴンちゃん……、どんな男の間違いでは?


「うるさいっ! あのな、俺は非の打ち所がない美なんだ。でも、あいつら俺のこと、男としては見れねぇって言いやがる」


 うん、わかるよ!

 ゴンちゃんほど美少女に相応しい子はいないもん。

 ゴンちゃんは女の子の友達は多いんだけど、彼氏にするには男らしさが足りないって振られちゃったんだって。男らしさ……、まさに俺のことだけど……


「俺のことだけど、だと? ふざけんな、ゴリラめっ。お前は男らしさがあるんじゃねぇ、ビッグフットなんだよ、バーカ」


 そ、そんなに褒めるなよ。ゴンちゃんたら、すぐノロケるんだから。


「ポッと頬赤らめるなっ。どういう思考回路だよ。もう、ヤダ、こいつ。いいか、俺は彼女を作る! お前は二度と俺の前に現れるな!」


 ゴンちゃん……

 俺は彼の決意を邪魔したくはない。ソウルメイトとしては、彼女のひとりくらい作っても、広い心で受け入れてあげるつもりだ。


「つもりだ、じゃねー。なんだよ、微妙に上から目線できやがって。いいか、俺は男だ! お前よりも数段上のカーストに存在しているのだ」


 俺は仏のような心で彼に微笑む。

 頑張れ、ゴンちゃん!


「『頑張れ!』じゃねー。良い顔で応援してきやがって。あのな、俺のネックになってんのは、この女装だろ。だったら、やめてやるよ」


 え……


「ふんっ。ショックか、ざまぁみろ。明日から男子の制服着てやる。髪もショートにするっ。これで女どもはキャーキャーいうこと間違いなし」


 ふふんっと上機嫌なゴンちゃん。

 でも、でもね。


「君の可愛さは、それくらいじゃ収まらないと思うよ」


 むしろ、可愛さ爆発しないか心配だ。

 小柄だもんね、ゴンちゃん。華奢だもんね、ゴンちゃん。

 首なんてほっそりしているから、ショートにすると余計に……


「やめろっ! 邪魔しても無駄だ。俺は決めた!」


 そうして、翌日。

 ゴンちゃんは、ついに十連敗した。


「どうしてだ……、なぜ振られるんだ……」


 しょんぼりなゴンちゃん。ぶかぶかの制服が庇護欲を誘うね。


「し、仕方ないだろ。成長期だからって親が買ったのがこれだったんだから!」


 大きめサイズだね。うん、親御さんは男子の制服を購入してくれてたんだね。


「う、うるさいな! 当り前だろ。俺は男なんだから」

「でも、やっぱり女子の制服のほうが」

「わかってるよ! 俺だって、あっちのほうがサイズあってるし、しっくりくるんだ。でも、モテたいんだよ、バーカ、バーカ」


 ゴンちゃん。その格好でも十分モテているよ。

 告白したほうは十連敗だけど、告白されるほうは今日だけでも両手じゃ収まらないよね。俺がだいぶ蹴散らしてやったけどさ。


「男ばっかりな! 蹴散らしてくれたのは……、そこは……、まぁ……」


 ありがと。って言った?

 ね、言ったよね!!


「う、うるせー。空耳だろ。言ってねーよ」


 もじもじしてる。やだ、もうっ。かわいーーいっ。


「だーもうっ。うるせーな。それに、あ、あれだぜ。い、一応、女子にも告られたんだからな。わかってるか、そこんところ。俺だって女子にモテるんだ」


 うんうん。美少年愛好家みたいな子だったよね。

 俺とのペアが萌えるって、褒めてくれ、


「違うっ。そこは忘れろ。あれはダメだ、ダメなやつだ」


 でも、ゴンちゃん。他にも「好き」って言ってくれた子いたよね?


「い、いたけど……、タイプじゃなかったんだ」


 胸小さいから?


「な、なんだよ、その目は……」


 その目? 俺、普通に見ているだけだよ?


「うそつけっ。なにか言いたげな含みのある目じゃんか。いいか、俺だって好みのタイプってもんがあんのっ」


 おっぱい大きい子だよね。

 Fカップの童顔だっけ?


「こ、こらっ。大きい声で言うな。女、女子の目があるだろ」


 そう? 

 俺は周囲を見回した。たしかに、ちらほらギャラリーがいる。

 それも、これも、珍しいゴンちゃんの男子姿のせいだけどね。

 希少生物扱いなんだ。ゴリラと美少年はいいショットらしい。


「でも、あれだね。ゴンちゃんはさ、あんなにDカップ以下は女とは認めないとか、ブスは女とは認めないとか言って」


「ま、待て! 俺はそんなこと」


 猛烈に慌てるゴンちゃん。ショートカットにしたから、耳まで真っ赤なのがよくわかる。あそこにカプッと……したい。


「ぎゃっ、やめろっ! ち、近づくな」


 さすがソウルメイト・ゴンちゃん。俺の気持ちが通じてしまったのか、パッと両耳を塞ぐ。そんな仕草がまた可愛いんだな、これが。


「お前のカワイイはいらねーんだよ。あと、女性差別発言は控えなさい。ほんとに君はゴリラだな。いや、ゴリラは平和主義者だったはずだ。うん、彼らは」


 ゴンちゃん、なんだかオドオドしながら話している。

 ……ははぁ、そうか。女子の目を意識してるんだな。急に紳士モードだ。


 でも、でもね。ゴンちゃん。

 真っ赤になって、あたふたしている姿にキュンと来ているのは……


「みんな男だよ。あと、美少年愛好」

「もうっ! 黙れーっ」

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