手紙の真相
家に帰ってからスケッチブックを開く。
あのあと先輩は「整理できるまで時間かかるかもだけど、読んでみてやってくれないかな」と優しく言ってくれた。
きっと美紗も、彼に救われていたのだろう。そんな彼が俺なんかにこれを託す理由はまだ分からない。でも、俺は美紗のことを知りたいと思う。それはとても美紗に対して不誠実に思えた。でも、それでも俺は知りたい。それは俗的な邪な思いだとも思っている。だが、このままだと俺は前に進めない。このままだと俺は、俺は美紗を──。
そこまで考えたところで俺はそんな邪念を振り払う。今はやめよう。今はまだ、それを考えるべきではない。
無理やり気持ちを切り替えて、スケッチブックに目を落とす。先輩と話したときは冷静ではいられなかったけど、今は少し落ち着いている。だが、
──何から調べればいいだろうか。
それとも
俺は先に手紙を読むべきなのか。でも今はまだ、それを落ち着いて読める自信はない。どうしても拒絶してしまうだろう。
では、先にスケッチブックを読むか。
さっきから考えがぐらぐら揺れて、1つにまとまらない。ダメだ。考えろ、自分。
結局考えは手紙に戻る。でもそれを読むのは、そう思ったところでふと1つ疑念を抱いた。
なぜ美紗は俺に手紙を託したのか。しかもあんな、回りくどい方法で。
「らしくない……よな」
確かにこれは、美紗らしくない。そもそも動機が分からない。俺にこんな風に渡さなくてももっと正確な方法はいくらでもあったはずだ。
なぜ今までこんな異常事態を受け入れていたのだろう。
……調べよう。それが、俺の中で優先順位が高い。
再度スケッチブックに目を落とした。そしてひとまず目標云々のページを流し読みしつつ目当ての箇所を探す。
どう生きたいか。行きたい場所。したいこと。──手紙の書き方。
見つけた!
はやる気持ちを抑えつつそのページを読むと、俺の頭は余計混乱した。なぜなら
──お母さんにバレないためには
──どうやって渡せばいい?
──書いたとしてどこに隠せばいいのか
──頼れる人は?
こんなことばかりが書き綴られていたからだ。どういうことだ。俺の頭に悲痛そうな顔をした美紗の母親の顔が思い出される。美紗と母親は上手くいってなかったのか。
そして妙に合点が行った。美紗は俺に母親の話をしていない。じゃあ、聞き手に徹していたのも。全て。全て。全て。
「なんで……」
思わず脱力したように呟く。俺は気づいてやれた可能性があった。先輩はきっと、それに気がついたのだ。だから美紗のことを知っていた。スケッチブックだって。俺は、何かしてやれることができたのかも知れなかったのに。先輩みたいに。
なんで気づかなかったんだ!
過去の自分に処理仕様のない怒りが沸いてきた。俺だって何かできたはずなのに。
その怒りの矛先をスケッチブックを読む原動力に充てる。
すると段々美紗と美紗の母親が不仲である理由、夏美と雀さんをよく思わない理由が分かってきた。
夏美は言葉遣いの悪いところ、成績のよくないところ、親の勤め先が工場であること。全てが気に入らなかったらしい。俺も成績という面で危うかったが、夏美の件で学んだらしい美紗は、親に上手いこと隠してくれたらしかった。
雀さんはどうやらハーフで、美紗の母親はその点に嫌悪感を感じていたらしい。加えて、校則上なんら問題のない寄り道も許せなかったようだ。
そして美紗はそのことや、母親が美紗に手をあげるところ、束縛気味なところが苦手だったらしい。
だから美紗は手紙を直接渡すことを諦めたのだ。バレてしまうから。だから何かを渡しても問題のない俺に隠すようにして手紙を届けたのだ。
じゃあ、俺宛の手紙はそのついで。美紗にとって俺は、俺は──。
俺はスケッチブックを閉じた。
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