夜、家に帰ってから俺は雅樹が美紗について言っていたことを思い返していた。


「行事に熱心で、明るくて信頼のあるやつ」


 雅樹は美紗のことをそう言っていた。

 それは、俺が持つ美紗のイメージと若干ではあるが、かけ離れたものだった。

 美紗はそこまで陰気というわけではない。だが、明るいと言われるとそれは違う気がする。それに、行事にそこまで熱心なやつだったか?そんなイメージは俺にはない。


 ……だが、


 そう思ってしまう。俺が美紗といた期間など、たかが知れてる。1年間。それだけではないか。

 つまり、俺が知っている美紗は俺のかもしれないのだ。

 1年間一緒だった、だけ。俺と美紗の絆はそれだけ。

 そんなの夏美や大翔、雅樹や小林先輩たちに比べたら余りにも短い。短すぎるのだ。

 そんな俺に何ができる?一体、何が?

 死んでから1年弱。まだこれだけしか経っていないのに、たまに美紗を忘れかけるような俺に、何ができるというのだ。

 たまに来る自信の喪失。

 だが、美紗は俺に頼んだではないか。他の誰でもない、俺に。

 それを裏切るわけにはいかない。

 そんな俺の頭に雅樹の言葉が反芻する。


 行事に熱心で、明るい。


 もしかして美紗は死んでしまうから、やりたいことをやり尽くそうとしたのだろうか。文化祭だとか、そういったことを。

 その考え方が正しいのであれば、明るくあることも彼女にとってしたいことなのだろうか。

 ルールを破ること、周りに迷惑をかけるまでに騒ぐこと、彼女はこれらに敏感であって、そういった人の大半がそうであるようにふざけることなど少なかった。

 明るいといったイメージがないのはそのせいもあるのだろうか。

 では、それらは全て美紗にとって嫌だったということなのか?

 分からない。考えれば、考えるほど彼女が遠くに行くようで。知らない人になっていくようで。


 俺が会っていた美紗は、一体誰だ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る