副文

私の趣味

 柊 美紗。趣味、人助け。性格、曲がったことが大嫌い。他人に厳しく、それ以上に自分に厳しく。

 なんでか、私はそんな風に思われているところがある。

 たしかに、人の役に立てることは素敵だとは思うし、ルールは守るためにあるのだとは思っているが……。

 だからといって趣味と言うほど人を助けているわけでもないし、曲がったことを一切許さないというわけでもない。

 多少のルール違反は見逃すし、事情があるなら仕方なくない?そう思っている。

 だが、


「学級委員は美紗さんがいいと思います」


 なぜかこのように学級委員などに推薦されることが多い。

 たしかに自分は比較的真面目な方だとは思うが……。だがその真面目さは、真面目と言うイメージを持たれたが故に自ら意識して作っているところもある。

 ──案外、そんなもんなのにな。

 そう思いつつ私は、いかにも小学生らしくざわざわしている教室のささやき声に耳をそばだてた。


「美紗ちゃん、いっつも学級委員だよね」


「うん。目立ちたがり屋」


 これは女子の声。


「美紗かぁ。

 すぐ注意されるじゃん」


「そうそう。面倒くさ」


 これは男子の声。

 どちらも腹立たしい物ではあるが、まだ男子の方が可愛げがある。

 離れた席では夏美がヒソヒソ話をする人たちを睨みつけている。

 そもそもこんな物に耳をそばだてなければいいという話なのだが、やはり気になってしまう。

 傷付くわけではないから良いのだが……。


 でも、私に押しつける癖に。


 少しだけ、そう思ったりもする。

 私のことをとやかく言う人はいても、代わりにやろうという人はいない。

 黒板を見ると、まだ私の名前しか書かれていない。私が確定で、誰かもう1人男子が推薦される、と言ったところか。

 そう考えていると


「美紗さん、やってくれますか?」


 松下先生に聞かれてしまった。

 やはり私で確定か。いつものことだし慣れたけど。


「はい。大丈夫です」


 断る理由もないので引き受ける。むしろ慣れていない他の仕事をやる方が面倒だ。楽な仕事というわけではないが、そこまで仕事が多いわけではないし。

 そういえば、男子の方はどうなるのだろうか。黒板には依然として私の名前しかない。変わった点と言えば、私の名前に赤で星が付けられていることだろうか。

 どうでもいいことに気が向いているうちに、松下先生が何やら箱を持ってきていた。

 それはほとんど立方体で、中央部に丸い穴があいている。


「このままでは男子の方が決まらなそうなので、くじにしたいと思います。いいですか?」


 どうやらあれはくじのようだ。

 箱の中に手を入れ、紙を取り出す、と言った古典的なくじ引き。

 何人かの男子は不満そうな顔をしていたが、松下先生は、反対意見がないのなら、と男子の席を順順に回りくじを引かせていた。

 男女1人ずつという決まりはないが、これはもはや慣例のようになっていた。男子は不満そうだ。

 そんなことを考えていると、先生が徐々に近づいてきた。まだ当たりは出ていない。

 そして先生は私の隣の眞琴くんの席に着た。嫌そうな顔をする眞琴くんに対し、先生は早くくじを引くよう催促した。

 彼はいやいや箱に手を突っ込むと、素早く手を引っ込めた。もちろんその手にはくじが握られていた。

 そんなに嫌なのか、眞琴くんはおそるおそるくじに書かれた文字を確認する。

 確認された文字には『アタリ』と書いてあった。

 眞琴くんは小さなうめき声を上げた。

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