さあ、準備を始めましょう!

 その日の7時間目はLHRで、議題は文化祭についてだった。

 ルーム長と副ルーム長が黒板の前に立ち、その後ろで書記が議題を黒板に書いている。

 ルーム長は明るそうな男子で、副ルーム長はいかにもな眼鏡をかけた真面目そうな男子。書記は2人とも女子だ。書いた文字を見やると


 店のテーマについて。


 テーマ決めもあったか……。

 俺の性格の特徴の1つに、面倒くさがりというのがある。今、それが遺憾なく発揮されようとしている……の、だが。

 美紗だったら、やる気出したりしたのだろうか。

 そんなことを、考えてしまう。

 そう思うと、このイベントを中々蔑ろに出来なかったりもして……。

 ぐるぐると、そんな考えが頭の中を引っかき回す。

 美紗のために来た学校だ。なら、美紗がしたかったであろう事も少しは、したいな。


「では、店のテーマを決めたいと思います。

 時間を取るので、周りの人と話して何か意見を出して下さい」


 そんなことを考えていると、話し合いが進み出したようだった。みんな、仲の良い子と一緒になり始めた。まあ、中には別の話題に走る人もいるけど。

 周りを眺めてぼーっとしていると、背中をつつかれた。


「へっ?」


 思わず振り返ると、大翔だった。


「ねぇ、眞琴~。

 なんか思いついた?」


「いや、何にも。大翔は?」


 聞かれると大翔は残念そうに首を振った。


「俺も何にも思いつかない。

 って言うか、琉球喫茶って言うからにはテーマは沖縄なんだとばっかり……」


 ──大翔から、まともな発言が……!!


「それで良くない?」


「え?」


「いやさ、そのまんまで良いじゃん?

 琉球喫茶なんだし」


「あ、そっか」


 大翔は納得したらしく、へらっと笑った。

 笑い方が少し変だが、人懐っこく、人に好かれやすい大翔がすると、これも愛想が良く見えるのだから凄い。


「じゃ、眞琴、提案よろしく」


「なんでだよ、嫌だよ」


「え、俺も嫌だから。

 お願い。やって」


 年甲斐もなくふくれっ面をする大翔に呆れつつ、俺は黒板に目をやる。

 まだ何も書いてねーじゃん。

 ルーム長たちも大儀なもんで。大変そうだな。取り仕切るって言うのも。

 そんな風に思っていると、例の明るそうなルーム長が前に出た。


「そろそろ意見も出てきたと思うんで、発表してもらってもいいですか?」


 この声に対して、ちらほらと手が挙がる。その大半は女子だった。行事ごとに興味があるのは、女子の方が多いのだろうか。


「じゃあ、木村さん」


 そしてルーム長たちはどんどん指名していく。

 北極、お祭、メイド喫茶にお化け屋敷。いろんなテーマがある。結局、大翔は渋々といった感じで沖縄の案を出した。


「ええっと、たくさん意見出たと思うんでここらで投票を行いたいと思います。

 行いたい物をどれか1つ選んで、手を上げて下さい」


 頭を軽くかきながらルーム長が喋る。

 なんだかいわゆる陽キャって感じがするやつだ。悪いやつではなさそうだけど、昔からの刷り込みか、苦手意識を抱いてしまいそうになる。

 みんなの前で笑いながら話し合いを進行するその人のことを、クラスメイトながら俺は何も知らないというのに。


「そろそろ決まったと思うので、決を採ります。

 北極がいいと思う人は手を挙げて──」


 投票は順調に進み、俺らのクラスは沖縄をテーマに準備をすることが決まった。

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