琉球喫茶のメニュー
部活の朝練とは結構早くから始まるもので、中々眠いものである。
ぼーっとしながら駅前を歩いているとなぜかふと、昨日決まったことを思い出した。
手を挙げた女子がはきはきと発音した『琉球喫茶』。
「琉球喫茶って、一体何なんだ……」
何気なく呟いたその時、
「おーい!」
俺の後ろから声をかけ、手を振る人がいた。高身長に茶髪の天然パーマ。背が高いが肩幅があまりないので、振られた細い腕が不安定な物に見える。──雅樹だ。
「よう」
「おはよう」
俺と違って真面目な雅樹は置き勉はあまりしないらしい。そのせいか、荷物は重そうである。
「眠いんだけど、朝練」
「どうせ昨日の夜までゲームでもしてたんでしょ」
「失礼な。読書だ、読書」
「漫画は読書に入らない。
それとも、ゲームの攻略本?アイドルの写真集とか?」
「違う」
俺はたしかに読書をしていた。
美紗にもらった本はまだ読み終わらない。
もともと本は好きではないし、自称活字アレルギーである。そんなに早くは読めない。
「ふ~ん。
あ、じゃあアレか。映画のパンフレットとか」
コイツの俺の扱いの雑さには閉口する。
俺のことを何だと思っているのだろう。
「小説だよ、小説。スポ根もののやつ」
そう言うと雅樹は腑に落ちた様子で「ああ、なるほど。バスケ部だし……」と顎に軽く手を当てて呟く。
そんな雅樹を見ながら俺はふと、さっきまで考えていた疑問を思い出す。
「なあ雅樹」
「ん?」
「琉球喫茶って何?」
「沖縄の食べ物でやる喫茶店じゃない?
でも、どこかで聞いたことあるような気もするけど……。
──あっ!
妹が前流行ってるって言ってたお菓子だ」
お菓子と言われてもピンと来ない。とりあえず固有名詞ということは理解した。うん。
「お菓子って言うのは?」
「うん。サトウキビ味とかシークヮーサー味のアイスだったり、海とかの風景を寒天で作った羊羹とか。
見栄えが良いから人気らしいよ」
「ふ~ん」
何となく理解して相槌を打つ。とりあえずそのメーカーのお菓子を売ることになった訳か、ウチのクラスは。
「眞琴のクラスはそれ売るの?」
「うん、たぶん」
「たぶんって……。
また話聞いてなかったの?」
「いや、眠かったし……」
言い訳にもならないような言い訳をぼそぼそと呟きながら、俺は思わず目を逸らす。
それを見ると雅樹は苦笑いを浮かべた。
「先生に目付けられてるでしょ、絶対に」
「怖いこと言うなよっ!!俺、早速学年主任に目付けられてんだから!」
「だから眠るなって言ってるでしょ」
「へいへい」
俺はふわあとあくびを噛みしめながら、やっと見え始めた学校に向かって歩いて行く。
不思議なことに美紗に少しでも近づきたいと思って通い始めた学校でも、その生活に慣れていくほど美紗だけを考える日は少なくなった。それは美紗を忘れてしまっているということなのか、それとも俺が敢えて彼女を意識しないようにしているだけなのか──。
まだ、分からない。
でも1つだけ言えることがあるとすれば、俺は、ここに通っていたときのことをもっと聞いておきたかったと思う。
ただ、そう思うのだ。
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