文化祭の始まり、の始まり?

        ヒント

・裏に私の秘密の帰り道を書いておきます。

 ※ピンクの封筒のヒントです


「ヒント少なっ!!」


 紙を見て、俺はつい叫んでしまった。

 悪意を感じるのを禁じ得ないほどのヒントの少なさである。これは高難易度の論理クイズか何かだったか。


 にしても、帰り道とは……。

 何のことだか今一つ分からないので、折りたたんで生徒手帳にしまっておく。

 今のこの状態で秘密の帰り道とやらを歩いても、何も分からないだろう。


 それに、これ以上自分が美紗のことを知らないと実感するのも嫌だった。





「ありがとうございました!

 失礼します!」


「失礼します!」


 部長の声に続くように部員たちで声を合わせて、体育館に向かってお辞儀をする。

 部活の終わりの挨拶は人の少ない体育館に木霊した。

 もう5月の下旬だ。少し暑くなってきて、みんな練習着をまくっている。

 そんなだらしない格好で、俺らはわらわらと部室に向かった。


「なあ、眞琴~、大翔~」


「「ん?」」


 俺と大翔は雅樹の声に同時に反応する。


「どうする?文化祭の出し物」


「先生が先週のHRで言ってたやつ?」


 大翔の声に雅樹がこくりと首肯する。


「ああ、あれか?

 明日までに各自文化祭の出し物の案考えて、明日のHRで決めるってやつ」


 記憶をまさぐりながら俺が言うと、雅樹が腹立たしげに答えた。


「そうそう。

 まあ、俺のとこの担任は今日言い出したけど……」


「急だな」


「絶対に忘れてただろ7月の文化祭」


 雅樹は不機嫌そうだ。


 まあ、それは仕方のないことだろう。7月の始めの文化祭のことだというのに、5月も終わろうとしている今、雅樹のクラスは何も出し物は決まっていない。

 担任の文化祭への熱意がよく伝わってくる出来事である。


 ちなみに、俺と大翔のクラスも出し物は決まっていない。

 雅樹と同じである。


「そういえば、去年までのはどんなのやってた?」


 この俺の一言に、雅樹と大翔は「えっ!?」と俺の方を見た。B級SF映画の冒頭で、主人公たちがモンスターを見る目である。


「志望校の文化祭とか、来なかったの?」


「うん。まあ、いろいろあって……」


 口ごもる俺に呆れたような2人の視線が刺さる。


「別によくない!?

 文化祭来てない人、きっと他にもいるよ!?」


 つい大声を出した俺に大翔が苦笑いを浮かべる。


「だってお前……この学校の面接で、志望動機は文化祭を見て云々言ってたじゃん」


「え゛」


 その言葉に俺は固まる。

 そういえば、大翔は同じ部屋で面接を受けていた。


「ソンナコトイッタカナー。

 アハハ」


「「嘘下手か!」」


 2人に思いっきりツッコミされた。


「てへぺろ」


 ダメ元で舌をチロリと出してみる。


「「やめろ。気持ち悪い」」


 ふざけたらまたツッコミが返ってきた。

 いや、俺、気持ち悪いとかの言葉で傷付くタマじゃないよ?これも友情さ、アハハ。

 あ、目に大平洋が溜まってる──。


 そんなことはさておき、


「それより、今までの文化祭って何やってたの?」


 分かりやすく会話を変えた俺に、2人はため息をつく。

 だが、先ほどまでの話題にそこまで関心があったわけではなかったのか話題は文化祭の出し物に切り替わった。


「高校生は……トルコアイスやタピオカ売ったり、お化け屋敷やネズミーランドのアトラクション体験とかやったり、劇してたりしてたな」


 雅樹が目を上の方に向けてキョロキョロさせながら答える。


「あっ!」


 すると突然、大翔が驚いたような声を出した。


「俺、去年の文化祭写真撮ってたわ」


「おお!」


「有能か」


 2人で褒めると、大翔は顔をしかめた。


「有能って、俺はロボットかよ」


 生物には到底使わないと思われた褒め言葉が怒りのツボを押したらしかった。


「まあまあ、そんなカッカしないの」


「そうそう。イラつく男はモテないから」


「モテなくてもいい。

 てか、俺彼女いるし」


「「は?」」


 まさかの発言に俺と雅樹、2人の声が重なる。


「だから、俺彼女いるって」


「嘘つくなよ」


「そうだよ。雅樹はともかく、なぜ中学校も同じだった俺が知らない」


「だって言ってないし」


 「俺をないがしろにするなよ!」と騒ぐ雅樹を置いてけぼりにして、会話は進む。


「で、誰?同じ中学校だった人?それとも高校で一緒になった人?」


「言わない」


「なんで!?俺とお前の仲じゃん。

 ねぇ~。教えてよ~」


 俺はわざとらしく大翔と肩を組む。

 雅樹は後ろで完全にいじけていた。


「語尾を伸ばすな。気持ち悪い」


「酷い!!

 傷付いたよ!?さすがに1日に2度も言われたら傷付くよ!?

 代わりに慰謝料として彼女教えろ」


「なんでそうなるの!?

 いや、面倒くさいわ!」




 こんなことを話して、この日はみんな解散した。

 文化祭のことなどすっかり忘れていた俺たちが次の日のSHRでどうなったかは、言うまでもない。

 ちなみに雅樹のクラスはタピオカ。俺と大翔のクラスは琉球喫茶に決まった。

 ……琉球喫茶って、一体何なんだ。

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