副文

私の1番の友だち

「その本、面白いの?」


「え?」


 夏美は、初めて私に話しかけてきたクラスメイトだった。

 小学校1年生で入学したて。周りからすると絵のない本を読んでいる私はかなりの変わり者だった。


「これのこと?」


「うん!

 何て本?」


 そんな私に夏美は話しかけてくれた。

 それがとても嬉しかったことを、今でも私は覚えている。


「シャーロック・ホームズの冒険」


 知らないよね、と夏美を見ると、彼女は目を輝かせて訊いてきた。


「冒険!?

 私、冒険物好きなんだ!

 どんな話なの?」


 ……こう言われると、内容を言ってしまうのが申し訳ない気もしてくる。


「冒険って言っても、冒険物じゃないんだ」


「え~、そうなの?」


「うん。

 シャーロック・ホームズって言う探偵が主人公で、難事件をどんどん解いてくの」


 ここに来て夏美が首をかしげる。


「難事件、って何?」


 あ、また皆が知らない言葉使っちゃった……。変なやつって思われるかな。

 低学年は、まだ何も知らないからこそ言葉1つで友だちができなくなることも多い。


「難しい事件ってこと」


「あっ、私、聞いたことあった。

 アニメで見たことある」


 でも、夏美は知らないことはどんどん聞いてきた。私のことも、知ろうとしてくれた。

 私はそれに答えたし、時には夏美にいろいろと教えてもらった。


 この関係は何年も続いた。

 私はいつも明るい夏美が大好きだったし、夏美も私と一緒にいてくれた。

 いろんなことを、一緒にした。


 そんなことを思い出しながら私は文を綴っている。

 感謝の気持ちがそのまま、夏美に届けばいいのに。

 気持ちをそのまま抜き取って渡せたら、どんなに楽なことか。

 何度目かの書き直しをした便箋を見て、私は


「こんなんじゃ、足りないよ」


 そう呟いた。

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