1人目の大切な人
封筒の中に入っている封筒の中から1番厚いものを取り出す。
封筒には『1番の友だちへ』と書かれていた。
「……ヒントこれだけ?」
1番の友だちって誰のことだろうか。
真っ先に思いつくのは夏美のことだが、この1番の友だちが美紗の学校の人という可能性もある。
「んー……」
しばらく封筒と睨み合うも、心当たりが全くない。
俺はスマホを手に取り、メッセージアプリの
今までそんなことを話したことがあっただろうか。
そんなことを考えながら、懐かしさを噛みしめて今までのメッセージのやりとりを見返す。
1つ1つ丁寧に、ゆっくりと時間をかけてこの3年間を巻き戻すように。
「どうしたら良いんだ……」
見返してみたら1つ発見があった。
美紗は学校でしていることの話題をあまりしていなかった。というか、聞かれない限りは基本聞き役に徹していた。
分かったことはクラスメイトとは上手くやっていること、部活はバスケ部に入っていたこと、それと男バスにいるバスケが得意な先輩を尊敬していることくらいだった。
……まさか、先輩が友だちと書かれることもないだろうし。
てかこの先輩のことが好きとかないよな?
1番の友だちが男子とかだったりしないよな……?
嫉妬とか、そういうことの前に俺が今の美紗のことを全然知らないことの悲しさが心に空いた隙間に入り込もうとしてきた。
そんな俺に、大切な人たちに手紙を届けることができるのだろうか。
「クッソ……」
あれから1週間。俺は手がかりすら見つけられていなかった。
何もできないのは虚しいもので、その虚しさを忘れようと俺は柄にもなく読書をしていた。
もちろん、美紗にもらった本だ。
その中の1冊がもうエピローグに入っていた。
現実逃避とか、ダサ。
分かってはいても向き合いづらい。
そんなことを考えていたとき、
パサリ
本の最後のページを開けた瞬間、メモが落ちた。
「ん?」
メモを手に取ると、目に入ってきたのは見覚えのある几帳面な字。美紗のものだ。
一番上の行に ヒント と書かれている。
なんだ、ヒントは他にもあったのか……。
ヒント
・これらの手紙の大切な人たちには家族は含まれていません。
・大切な人たちは必ず市内にいます。
・そして、結局はそんなに遠いところにはいません。
・言葉遊びになりますが、1番厚い封筒の“大切な人”は天敵がいません。
「言葉遊び……?」
俺はヒントになっているのかなっていないのか分からないヒントに首をかしげる。
「天敵……てんてき……点滴?」
いや、これはないなと首を振る。
「天敵……テスト?」
ますます これはないな。
ダメだ。俺に言葉遊びなどと言うクイズは向いていない。
そもそも考えるという行為自体が苦手だ。
てかアイツ、それを見越して俺のことで遊んだりしてないよな?
……他のヒントに移ろう。
絶対に市内にいる。
どういうことだろうか?
市……市?
俺らと同じ町に住んでるなら町って書くはずだし……。
なぜ市なんだ?
とりあえず、美紗のことをいろいろ思い出してみる。
読書が好きで、几帳面で、バスケ部で、正義感が強くて優しくて、今は市立の中高一貫校に──。
「それだ!」
市立の学校に通う人なら絶対に市内に住んでいる。
美紗の学校のホームページを見てみると、受験の条件に市内に住んでいる、もしくは入学時には住む予定であること、とある。
じゃあ、学校の人ってことか。
大体の人は絞れたことだし、次にやるべきことは
「学校の人たちに会うこと、か……」
どうすればいいのだろう。
思考の海に溺れながら、俺は気付かぬうちに眠りについた。
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