届いた本
「えっと……どうされました?」
今俺の目の前には、美紗のお母さんがいる。
美紗の葬式からそろそろ2週間。
こんな時期に一体何の用事だろうか。
そんなことを無気力に考える。
別れの挨拶をしたものの、俺は何もかもがどうでもいいままで空っぽだった。
「黒石眞琴くん、よね?」
「そうですが」
「渡したいものがあるのだけど、受け取ってくれるかしら」
美紗のお母さんは大きめの紙袋から、白い袋に丁寧に包装された何かを取り出した。
おそらく、それが受け取ってほしいものだろう。
「それ、なんですか?」
思ったことをすぐに口にしてしまった俺に彼女は優しそうに微笑む。
「娘から眞琴くんに渡してほしいって言われたものなの。
中身は見てないから分からないけど、たぶん本だと思うわ」
「本……ですか」
そこではて、と疑問に思うことがある。
俺は読書が苦手だ。
また、そのことを美紗はよく知っている。
夏休みに読書感想文の宿題が出たとき、手伝ってもらったから向こうも覚えているだろう。
「で、受け取ってもらってもいいかしら?」
疑問に思うことがあっても、答えはとっくに決まっていた。
「はい」
だってこれは、美紗のものだから。
美紗が最期に、俺に渡そうとしてくれたものだから。
「ありがとう」
「いえ、むしろありがとうございます」
断るわけ、ないじゃないか。
「なんだこれ」
包装を解くと、中には十数冊の本と分厚い封筒が入っていた。
数冊の本はタイトルから察するに全部バスケに関するもの。
スポ根ものから今までの試合で名試合と言われたもののまとめられた本、トレーニングについてなど様々。
よくまあここまで集めたもんだ。
分厚い封筒には大切な人たちへと書かれていた。
開けてみると3枚の封筒と手紙が入っていた。
拝啓 黒石 眞琴様
日差しが強くなり、徐々に夏が近づいて参りましたがいかがお過ごしでしょうか。
突然あんなことが起きてしまい、驚かせてしまったと思います。何度か病気のことについては話そうと思ったのですが、なかなか言い出せずに今に至ってしまった次第です。
そのことで折り入ってお願いがあります。
この封筒の中にある手紙を届けてほしいのです。急にこのようなお願いをしてしまい、すみません。
誰に頼もうかと考えたときに真っ先に両親が思い浮かんだのですが、悲しんでいる姿を見ると頼めなかったのです。
後生です。どうか、これらの手紙を届けてはくれませんか。
敬具 柊 美紗
本当に最後に渡したかったのはこれだったか……。
この中に俺への手紙はあるのだろうか。
どうでもいいことが頭に浮かぶ。
「分かったよ」
分かったよ、美紗。
ちゃんと届けるよ。
だってこれは、美紗の大切なものなんだろ?
美紗にしてもらったこと返すつもりでさ。
この日から、俺の小さな旅が始まった。
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