副文

初めて彼を知った日

 転校生の黒石眞琴くん。


 私が初めて彼のことを知ったのは全校集会のはずなのだけど、私はその日のことをまったく覚えていなかった。

 彼のことを初めて知ったのがその日だと、それとはまったく別の日と前後して思い出した。


 私が彼に興味を持ったのは、彼が転校してきた小学4年生のときの校外学習だった。





「みなさん、電車の中では静かにして下さいね。ここは公共の場ですから、十分周りに気を付けて下さい」


 先生が駅の改札口でそんなことを言っていたが、私の注意は別のところに向いていた。


 隣のクラスの列に、顔が真っ青な男子がいた。

 近くの子に小声で「大丈夫?」と聞かれているが首を縦に振っている。

 でも、どう見ても体調不良者。

 下手な嘘だ。

 さっきから電車を何本か乗り継いでいたから、もしかして乗り物酔いか。


「では、みなさん立って下さい。

 先生の後に静かについてきて下さいね」





「間もなく4番線に電車が参ります──」


 少し騒々しい駅のホームでアナウンスが流れる。

 隣のクラスの男子は相変わらず体調が悪そうだった。


 ガタンゴトン


 彼は電車を見て顔をしかめる。

 ……大丈夫かな?





 電車に揺られること数分。

 あの男子は同じ車両だった。

 平日なので空いていて、生徒たちで占領しているのに近い状態だ。

 だからか少し騒がしい。

 さっきの男子はまだ気持ち悪そうだ。

 電車のスピードは徐々に遅くなっていって、目的地の3つ前の駅で止まった。


 私が座っているすぐ近くのドアからおばあさんが入ってきた。

 空いている席はない。

 譲ろうか……。

 でも、少し恥ずかしいし逆ギレされても嫌だし……。

 でも……


「ここ、座って下さい」


「ありがとう」


 そう思っている間に、さっきの男子がおばあさんに席を譲っていた。具合が悪いのにも関わらず。





 この時からだ。

 私が彼に興味を持ったのは。

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