隣の席

「あっ」


 始業式が終わって教室に入ると俺の隣の席にいたのは、その日の朝に見た女子だった。


 彼女は怪訝そうにこちらを見ると、またすぐに黒板に視線を戻す。


 黒板には文字が書いてあった。

 基本的な内容は静かにすること。だが、静かにしているやつはほとんどいない。


 そのとき、ガラガラと音がしてドアが開いた。


「遅れてすみません」


 入ってきたのは先生だった。


「このクラスの担任の松下まつした 陽和ひよりです。

 これから1年間よろしくお願いします」


 松下先生は若い女の先生で、たしか去年この学校に赴任してきたはず。

 どこの担任やってたっけ。


「今日はもう授業はありませんが、とりあえず」小さい子の相手をするように先生は手をパンと打つ。「隣の席の人と自己紹介しましょう。あとでカードを配るから、そこに隣の席の人のこと書いて下さいね」


 そうだ。低学年の担任だった。





「えっと、俺は──」


黒石くろいし 眞琴まことくんだよね?」


「えっ?」


 会ったことがない相手だと思っていたが、向こうは俺のことを知っていたらしい。


「なんで俺のこと知ってんの?」


「なんでも何も、転校してきたとき全校集会で校長先生に自己紹介させられてたでしょ」


「そうだったけど……」


 どうやらこの女子は記憶力がいいらしい。


「えっと、君は……?」


「柊 美紗。

 はじめまして、眞琴くん」


「こちらこそ、はじめまして」


 これが俺と美紗の初めてかわした会話だった。

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