1日目.日々 (下)


午後の授業もあっさりと終わった。というかあまり授業を聞いていなかった。

帰りのホームルームで、茶封筒に入った保護者向けのプリントが配られた。きっと…滝沢先生についてだろう。

中身をそっと見てしまうものもいれば、辛辣な顔で教室から出ていくものもいた。

俺は苦い顔をしてリュックを背負った。

「岡、帰ろ」振り向いて帰りを催促した。

「わり、今日バイトある!」

「そっか、頑張れ」岡はありがとな、と言って時計を確認すると、焦ったように教室から出て行った。

岡もいないし、図書館で本を返して、勉強でもして帰ろうかな。と思ったが、生憎月曜は休館日だった。

「教室でいいか」

どさっとリュックを下ろし、机に向かった。

俺のクラスは部活やバイト、遊びに忙しいやつが多くて、比較的大人しい人が少ないクラスだ。

そのため、放課後の教室はガランとしていることが多かった。今日は一人もいない。

参考書とノートを開く。何故か今日は何か熱中するものが欲しかったんだ。


30分ほど経っただろうか。

ガラガラと、ドアを開く音が聞こえ、顔を上げた。

女子二人…今日喋った人と、朝比奈さんがいた。不思議な組み合わせだな、と思ったがどうやら別行動なようだった。

「あ、朝比奈ちゃん、ごめんね」はにかみながら言う彼女。

「ううん、大丈夫」と、控えめに返す朝比奈さん。

俺には気づいてもいない様子だ。

と思った刹那、「あれ、立花くんじゃん、残って勉強してたの?」巻き髪をくるくると触りながら話しかけてくる。

「ああ、うん、今日の問題、苦手だったから」すこしどもってしまった。空気と化していると思っていたのに。

「う~んどれどれ…先生が見て上げましょう」先生と扮してふふんと鼻を鳴らし、ずいっと近寄ってくる彼女は、なんか、いい匂いがした。

「えーっと……ごめん、わかんないや」むりむりとアハハと声を上げて笑った。

「やっぱり」というと失礼です!と怒られたが冗談の範疇だ。

一方、朝比奈さんは地面をぼうっと見つめ、鞄を抱えてスタスタと帰ってしまった、

心配だな…と無責任な自分が頭の中で言った。

「は~~スマホあった~~!」独り言をデカデカと言い、「立花くん、じゃね」と踵を返した。

また一人だ。

「俺もそろそろ帰るか…」開け放たれたドアを見てぽそりと呟いた。


いつものように靴箱を開け、上靴から履き替えた。

当然の如くラブレターなんて入ってない。なんの変哲も無い帰りだ。

うわ言を心の中で言いながら、校門付近まで行くと、今日朝比奈さんのことで冷やかされていた奴がいた。

ちらりと見てやると、目が合った。

「あ、岡っちの友達じゃん」岡っちとは岡野のことだろうか。気付いたようで、声をかけてきた。悪いヤツではないんだな…うん…。

「ん、あーこんちわ」適当にそれらしく返す。

「LINE持ってるっけ。」コミュ力指数が高い。スカウターがそう言っているように感じた。

「どーだろ、確認してみるわ」じゃな、と帰路へ向かう。

それらしく返しているつもりだけど、コミュ症だったり、内面的なものは変わらないのかな。友達の友達に声はかけらんねえや。


家に帰ると岡からLINEが

『バイト終わり~』

『お疲れ』岡、バイト頑張ってんな。カラオケだったっけ。いくつか掛け持っていた気もする。

『そういえばさっきお前のLINEほしーって人いた』

『誰』検討は大体つく。

面倒だと感じてしまい、考えとく。とだけ返信した。

風呂でも入るか。


風呂上がり。スマホを確認すると、見慣れないアイコンの人からメッセージが。

絵文字に囲まれた名前には れな と書いてあった。

みんなで撮っている動物のような自撮りアイコン。制服からしてうちの女子生徒だろう。

内容は、『立花くん!今日の数1のノート見せて(>_<)』とのことだった。

名前を呼ばれて、なんとなく心当たりがあった。きっと今日話した女子だろう。

でも何故俺なんだ?仲の良い人にでも頼めばいいものの。どうしてだろう。

失礼なことが頭をよぎってしまった。友達もノートを取るタイプではないのだろう、と。

『いいよ。れなさんはどこまで描いた?』

当たり障りなく返す…普通に

会話は滞りなく進んだ。ノート画像を送ると、お礼を言われ、おやすみ。と。

かわいらしい絵文字に目がチカチカした。

女子、どころか交友関係が狭いため、岡意外とそこまで喋らないので緊張した。

身体全体が高揚していた。立花 翔 はあまりにも馬鹿だった。


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