1日目.日々(上)
1
月曜の朝。重い体を起こし、学校へと足を運んだ。
バスの停留所には人が沢山いて、朝から吐き気に苛まれた。
プシューッと目の前で止まったバスへ、後ろの人に押し込まれるように乗った。
ああ、今日は遅刻していけばよかったな。
思ったより余裕がある時間だ。
学校へ着くと思っていたとうり、先生の話で持ちきり。
騒がしいわけではなく、皆後ろめたそうにコソコソと話している。
「岡。おはよ」後ろの席にやつれた様子で座る岡がいた。ちゃんと寝たのか。
「あ、かける。おはよう」岡はにこりと笑顔を作ったが、当然心からではないことを伺えた。舌ったらずに俺の名前を呼ぶのは相変わらずだが。
ふと辺りを見渡すと、視界に入った。窓際で綺麗な顔をしかめ、暗い雰囲気を醸し出している女子生徒。
朝比奈さん………
聞くところ、どうやら彼女は事故現場を目の当たりにしたそうで。
辛いはずなのに、登校している彼女…
パチリ。
一瞬目があった気がした。気のせいだろうか。
そろそろホームルームの時間だ。
昼休み。混雑している売店に向かう。
「はらへったな!岡は何食べる?」いつもとくらべてかなり元気がない岡。どうにか明るく振舞ってみるも、やはり暗い表情のままだ。
俺はどうすればいいんだろう…人付き合い合いが苦手だからか、わからないことが多かった。
「焼きそばパン」
そっか。と相槌を打って、俺はコーヒー牛乳を買った。
いつもの量を買う岡をみて、食欲はあるんだな、と安心した。
騒がしい廊下に顔をしかめつつも、教室に戻って、いつものように机をくっつける。
「わりぃ、トイレ行ってくる」
「うん、先食べとく」
冷凍食品を詰めた弁当を開け、少し冷えたご飯を口に運んだ。
ぼうっと外を眺めながら、ついさっき、売店に行った道中のことを考えていた。
売店がある一階フロアはお昼時になるといつも混んでいて、でも今日は空いている方だった気がする。
みんな噂を確かめようと、職員室を覗いてみたり、とにかく、そわそわと忙しなかった。
学生の俺らは何もできないが、やはりみんな気が散っている。
実際、それは俺も同じだし。ストロー越しにコーヒー牛乳を吸いながら思う。
売店の袋を下げた岡と歩いてる時。階段に屯している、おちゃらけた男子達が話しているのが耳に入った。
「なあ、朝比奈さんが事故現場いたってマジ?」
「そーらしいぜ、やばくね?」
「お前はどう思うんだよ、心配じゃねえの?朝比奈さん。」彼女の名前の部分をゆっくりと言って強調し、ニタニタとからかうように周りが問いかけている。
どうやら右端にいる彼は朝比奈さんに好意を寄せているらしい。
「べつに………」頬を赤らめながら言う彼にまた奇声などと言った冷やかしが入る。
全く、人が亡くなっているのに能天気だと思う。
ふと、一年の頃に朝比奈さんが教室で友人としていた会話を思い出した。
「特に深く接点のない人からの好意ほど、嫌気がさすものってないよね」と怪訝な顔をしながら困ったように言った。
少しきついんじゃないか。そう思ったけど、それもそうだ。
気の無い相手でも、気持ちの悪くない人……
そうだ、人によるんだよ。と考えがまとまらないので投げ出した。
心の中でしょうがないと嘲笑う。
俺の心の内が醜いのもしょうがないんだ。
ドンッ。いきなり背中を叩かれ、心臓が止まるかと思った。
「おい、大丈夫か?」返事がないのできっと上の空に見えたのだろう。
「痛いな。ぼーっとしてただけ」なんだよ。と笑う岡。やっぱり、岡は笑顔の方がいいと思う。
「おう。廊下滅茶苦茶混んでた」
いつものように適当に喋っていると、すぐに時間は流れた。
昼休みもそろそろ終わる、その頃に。
ガタンッ
誰かが机に打つかってきて、揺れた。スカートを履いている。どうやら女子生徒のようだ。
「あ、ごめん!」こちらをみて謝った彼女の名前は、覚えていない。
同じクラスの………目立つ存在の、少し派手な身なりの女子。
やはり昔から人の名前を覚えるのは苦手なようで。
「立花くん?」ぶつかってきた彼女が不思議そうに顔を覗き込んできた。
「ごめん。大丈夫だよ」あはは、と困ったように笑い返すと、
「そっか、ごめんね」と微笑み席へ戻って行った。
それと同時に岡も戻って行った。
なんら変わりない昼休みも過ぎ、なんら変わりない午後を過ごすんだ。
「はあ…」ため息が零れ落ちた。
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