第5話



 ……しかし、奪ったという表現にはいささか語弊がある。


 なぜならこの事件はそもそも被害者と加害者が逆だ。



 つまり、俺が考える真相はこうだ。




 神島陽菜はプライベートでこのピアスをつけていた。

 そしてそれを三好玲香は目撃した。

 

 このクラスの男子にはいったいどういう風に三好玲香が写っているのかは知らないし興味もないが、俺から言わせれば彼女はミーアキャットにトップの座を奪われたライオンと言ったところ。

 

 神島陽菜に対してジェラシーを感じている事は常日頃の彼女の言動を見ていればわかる。

 

 学校では化粧もせずお行儀よくしている神島陽菜がプライベートではピアスなどつけて大人ぶっている。というよりもはっきり言ってきれいだったのだろう。

 しかし、それを認めたくなかった三好玲香はその高そうなピアスを奪ってやろうと考えた。

 おそらくそれが行われたのが今日の朝、例の赤い橋の下だ。

 神島陽菜は大人しくあまりにか弱い。

 

 初めは見せてほしいとかなんとか言って取り出させ、ケースごと強引に奪い取ったのだろう。


 それを取り戻したかった神島陽菜はスキを見て彼女のロッカーを捜索し、ケースの中にピアスを見つけた。だが、その時に本人あるいは別の誰かがやってきたため、仕方なくピアスだけをポケットにしまい込んだのだ。

 そうでもなければあんな高価そうなピアスを裸でポケットに入れているのは不自然すぎる。


 そしてピアスが無いことに気が付いた三好玲香には犯人がすぐにわかった。


 そこでやめておけば何事もなく終わっていたのだが、彼女はある計略を思い浮かんでしまった。


 それが今回の盗難事件。


 ピアスが盗まれた事にして、先にその特徴を言ってしまう。

 すると後から裸で見つかったそれは、たとえ元々本人の物であったとしても、盗品のように映ってしまうのだ。


 動機は言うまでもなく、神島陽菜の評判を落とすこと。


 以上が俺が推察するこの事件の真相。


 

 この仮説が穴だらけなのはわかっている。はっきり言ってこれは推理とは呼べない。

 例えるなら、夜空に散らばる星々を線でつないで、さも意味ありげなストーリーを付け加えたようなものだ。


 真実を追い求めるならば、実際に現場に赴いて証拠を探し、当事者にそれを突き付けなければならない。

 例えば、橋の下のぬかるみには彼女らの靴の跡が残っているはずであるし、校内でくまなく聞き込みを行えば、ロッカーで不審な行動をしていた神島陽菜の目撃情報が得られるだろう。


 だが、そこまでする必要があるだろうか。


 神島陽菜の終始怯えた様子や、三好玲香の、大事な物を盗まれたというのにやけに余裕ぶった芝居がかった口調。

 俺の発言に明らかに怪訝な顔をしていたのに、俺が神島陽菜を疑った時だけ不自然に擁護した。


 俺にとって証拠はそれだけで十分だ。

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