第2話

「朝家を出るときにケースに入ったピアスをカバンに入れたのは覚えている。そして、家からは寄り道せずに真っすぐ登校して、貴重品用のロッカーにケースを入れた。そして放課後、ロッカーを開けてカバンの中を確認するとケースはからでピアスが無くなっていた。……という事であってるね?」


 三好玲香が頷くと、取り巻きの一人が、


「さすがの名推理! 名探偵ぶりは今日も健在だなあ!」


 とはやし立てる。


 俺は、推理じゃないだろ、と心の中でツッコミを入れた。

 彼はただ現状をまとめただけにすぎない。

 これはまだ調査の段階だ。


「ロッカーは校舎に入ってすぐのところにある、四桁のナンバーロック式だよね? カギはかけていなかったのかい?」


「かけてた……と思うんだけど、はっきり覚えていないの。それにカギをかけていたとしても、私の誕生日にしてたから……」


「なるほど。つまり玲香の誕生日を知っている者ならば誰でも開けられるわけだね。もちろん、授業中に盗むわけにもいかないから犯行は休憩時間か、放課後に行われたことになる。ピアスを見つける確実な方法は手荷物検査をすること――」


 彼が『手荷物検査』と言った瞬間に何人かの生徒は無意識に瞬きを止め、わかりやすい者は体を小さくびくつかせた。この中に犯人がいるのかもしれないが、誰にだって人に知られたくない持ち物くらいあるだろう。


あの優等生の神島陽菜でさえも。


「――だけど、現時点で容疑者はこの校舎の生徒全員だ。生徒全員に手荷物検査をするとなると、それはあまりにも大事おおごとになるから、できれば最後の手段にしたい」


「私もそう思う……。本当は私が持ってくるの忘れただけだと思いたいんだけど、家に電話で聞いたら、ピアスは見つからなかったみたい」


「そうか。とにかくもう少し手掛かりが欲しいな。みんな、何か気になる事があったら発言してほしい。どんな些細な事でもいい。一見事件と関係ないような事が重要な手がかりになる事があるんだ」


 長谷部智也の先導によりクラスが一体となり、皆がそれぞれに頭をひねる。


 そんな中、俺は外の景色を悠然と眺めていた。

 現時刻は17時30分本来であればとっくに下校している時間。だが今日に限ってはそうはいかなかった。

 

 今朝、登校途中から徐々に降り始めた小雨は昼過ぎから一気に気温が下がったことで雪に変わり、今となってはこんこんと降り注ぐ雪で窓の外は一面真っ白。


 この地域では珍しいゲリラ豪雪とでも言うべきか。


 ピークは過ぎたとは言え、まだまだ視界は不良で、校門前にある橋が目視できないほどだ。

 最近塗り替えを行ったばかりで、今朝はあんなに鮮やかな赤を放っていたのに今はもう見る影もない。


 まあ、とにかくそう言った事情でほとんどの生徒は校舎に缶詰め状態になり、雪足が弱まるのを待っているのだ。


 別の見方をすれば、これは時間制限付きの事件。

 容疑者である生徒達が下校を始めてしまえば迷宮入りになってしまう。

 果たして我がクラスが誇る名探偵、長谷部智也は解決に導けるのだろうか。



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