第三章 部活動結成!?

1.疑惑







 休日も終わり、ある程度は街の活気も収まってきた。

 学園も通常通りの一週間が始まる。学徒はみな相も変わらず赤き賢者レッドの噂話をしていたが、僕にはそのことよりも考えなければならないことがあった。


 それというのも、あの男――黒き始祖のことである。

 短剣を突き刺した瞬間、微かな手応えはあった。けれども致命傷に至るよりも先に、アレは黒き傀儡に入れ替わっていたのだ。

 これは魔法というより、何かしらの技だ。そのために対応できなかった。

 しかし一度見たからには、僕に二度目は通用しない。


「それに、あの首の傷は治癒魔法が効かないからな……」


 そしてもう一つ。

 あの傷は、男を探す際の手がかりでもあった。

 僕は短剣に、特殊な魔法を施していたのである。もしかしたら『呪い』といった方が近いのかもしれないが、とにかくあの傷には魔法への耐性を付与した。


 簡単にいえば【アンチ・マジック】――抗魔力向上魔法の応用だ。

 この魔法は一般的に自身に付与することによって、敵からの魔法攻撃の威力を低減するもの。だけど僕はその理論を再度見直し、再構築した。


 それによって完成したのが、あの短剣。

 あの剣によって傷を負った者は、僕以上の魔力をもった者でない限り、即座に傷を失くすことは不可能だった。自然治癒ならあり得るが、少なくとも数日で消える傷でないことは間違いない。したがって、これからは首に傷のある人物を探す。


 それが当面の僕、赤き賢者レッドとしての目的だった。


「まぁ、それは夜の仕事として。昼は普通の少年、リードくんです、と……」


 そんな結論を呟いて、欠伸を一つ。

 教室の自席に座ってボンヤリと、朝の暇を潰していた。

 さて。そんな風にしていると、声をかけてくる女生徒がいる。


「ねぇ、リードくん? いま、少しいいかなっ!」

「ん? どうしたの、ステラさん」


 それは、なんというかお決まりの相手――ステラ・カラハッドだった。

 彼女はどこか嬉しさを抑えきれない、といった表情でこちらを見ている。こちらが首を傾げつつ返事をすると、少女は明るい声でこう言った。


「あのね! 私、アンジェリナさんと部を創ることにしたの!」

「はぁ、部……?」


 それはこれっぽっちも、僕の頭にない言葉だった。

 思わず間の抜けた声でそう返してしまう。


「部活って、なんの?」


 次いで出てきたのはそんな疑問だった。

 まぁ、百歩譲って部活動をするという突拍子もない話を呑み込んだとしよう。

 だけれども、問題はその活動内容だった。そしてどうして、他にいくらでもいる中から、僕に声をかけたのか。そんな気持ちを込めて言うと、ステラは――。



「レッド様を応援するための部だよ!」



 ――ハキハキとした口調で、そう宣言した。


「はい……?」

「名付けて、赤き賢者レッド同盟! 私が部長で、副部長がアンジェリナさん!」


 頭上に疑問符を浮かべるこちらに対して、にこやかな表情を変えない少女。

 そこに、自身の言っていることの不可思議さを疑う様子は、微塵も感じ取れなかった。なんだったら、賛同者を得たことで、以前より勢いが加速している。


 駄目だこいつ、早くなんとかしないと……。


「あの、さ。その部活だけど――」


 そう思って、僕が忠告をしようとしたそのタイミングで。


「あ、始業のチャイムだね! それじゃ、またあとでっ!」

「あー、うん……またあとで」


 狙い澄ましたかのように、鐘の音が鳴り響いた。

 こうなっては仕方あるまい。彼女を止めるのは、またあとでだ。

 僕はそう思って前を向く――しかし、その途中であることに気付くのだった。


「あれ……? クリンのやつ、今日は遅いな」


 左隣の席。

 そこにいつもいるはずの少年がいないことに。

 入学して以来、無遅刻無欠席を貫いている彼なのだが、今日はどうしたのか。


「まぁ、考えてもどうにもならないか。寒くなる時期だし、な……」


 風邪でも引いたのだろう。

 そう思った時に、担任であるプレーン先生が入ってきた。

 僕が口に出したように、先生も首にストールを巻いている。王都ガリアはもうじき冬季、というものに突入するのだ。

 なので、心なしかクラスメイトもやや厚着になってくる。


「えー、それでは出席を取るぞ」


 プレーン先生は、どこか機嫌悪そうにそう口にした。

 そして、順番に生徒の名前を読み上げ、ちょうどクリンの番になった時だ。


「えー……クリ――」

「はああああああああいっ! おはようございまああああああああああっす!!」


 学園全体に響き渡るような、そんな大声を発しながら。

 教室の扉を開く男子生徒――クリンの姿があった。


「せ、先生! これは、セーフですよね!?」

「……あぁ、そうだな。本当にギリギリだが、良しとしよう」


 坊主頭の少年はそれを聞いて、渾身のガッツポーズ。

 その後に、大きく肩を落としてこちらにやってくるのだった。


「おはよう、クリンくん」

「あぁ、おはよう。リードく……ん? どうしたんだい?」

「え。あぁ――いや。クリンくんが遅いなんて、珍しいなって」

「あー、うん。ちょっとだけ、父さんと喧嘩しちゃったんだよね」


 僕は隣の席に座った彼から、しばらく目を離せなかった。

 ふと、気になることがあったから。



 クリンの首に巻かれた包帯。

 彼はなんてことないと話したが、それがどうしても気にかかった。


 

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ぼくのかんがえた理想の賢者! ~前世の知識と、今世の才能活かして世界最強~ あざね @sennami0406

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