第十話

左手の甲にシャープペンを刺すように立ててみる。左手の甲の一点に痛みが走る。


「痛みをどうにかしてくれ」という信号だろうか、ラジオのボリュームを急に上げたときみたいに電子音が大きくリズミカルに流れ始めた。


しかし次の瞬間には音がどんどん小さくなっていくのであった。おそらく危険はないと判断したからであろう。


一音一音作られていくというよりは、常に音調が流れていて、その現象にあわせてボリュームとリズムを調整しているという印象であった。


「そうだ、頭の中に出来上がっている電子音を気にするより、自分で電子音を作り上げることが出来ないだろうか?それによって操り人形ではなく、意思をもった人間としてDNAを操っていけるかもしれない!」


『電子音を作り上げる』


『逆にDNAを操る』


ふと思いついた考えであったが、さっきまでの一抹な不安が晴れていき、やりがいを見つけたような気がした。二日酔いさえなければもっとスッキリしていたことであろう。


武田は、本能的な欲求を自ら作り出すことを考えた。


お酒を飲んだときを思い出すと、本能的欲求である電子音に混乱が見られた。同時に自分の意思も乱れてしまうのだが、本能的な欲求に従わなくても大丈夫な時間がかなりあり、自分の意思を通すことができたような気がしていた。


そこで、脳・DNAからの信号を自分の意思を中心とした信号にシフトできないかと考えた。


武田はオフィスにおいてある小さい冷蔵庫に前から入っているお酒を取り出していた。今実行しなければ、これから機会がなくなってしまうような焦りを感じ、グラスでお酒を飲み始めた。


「うぇ、こんなにまずかったっけな?」


ちょっとむせながら飲み終わると、また頬杖をついて両手で顔を覆い、頭の中に意識を集中した。


ちょうど、交響楽団がホールで各々の楽器の音律を調整しているかのようなまとまりの無さでいて、うるささである。


コンサートは今にも始まりそうで、定期的な電子音が流れ始めて合奏となってもつまらないため、武田は頭痛薬を試してみることにした。二日酔いだったというのもあるが、お酒と一緒に摂るとハイになることができると聞いていたからだ。


「やばい、DNAからの音調の統率が行われる前に、新しく電子音を作りだしてみなければ……」


服用して数分たって、突然「ガクンッ」という意識の落ち込みがあった。お酒に酔うというより、強烈な眠気に襲われるような感覚で、同時に頭痛が激しくなっていく。


武田はこのチャンスに自分が電子音を作っていくという試みを何とか成功させたいと気力と頭を働かせて一つの可能性に賭けてみた。


つづく

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