advent.09 1

 今回、カズトたちがたどり着いたのは周りを山に囲まれた石造りの街。この街は厳しい山々を越えようとする冒険者が集まりできた街とされ、今もなおにぎわいを見せている。

 カズトたちも例にもれずこの連なる峠を越えるために立ち寄った。ひとつ前に立ち寄った町から数えてひと月ほどフィールドを歩き回り、ようやく栄えのある街にたどり着いた彼らの食料や物資は底をつきかけていた。

 しばらく路銀を稼ぎつつ羽を伸ばそうということで一時的にパーティを解散し、四人はそれぞれ自分の時間にあてていた。

 

 

 

 その中でカズトはひまつぶしを兼ねて、高難度エリアのクエストを請け負うことにしたようだ。

 そこは貴重な鉱石が取れるとされるほの暗い洞窟。今回、この洞窟にある貴重な魔石をいくつか採取してくるというのがカズトの請け負ったクエストだった。

 高難度エリアと指定される場所なだけにひと気もなく、カツカツと靴底がこすれるだけの音がやけに遠くまで響く。坑道内にはひとつ息を吸い込めば肺が満たされるほどの濃い魔力が充満していた。

 濃く強い魔力は弱い者にとって毒となり人の体をむしばむ。それは当然そこにすむモンスターたちにとっても例外ではなく、強い魔力に適応していける強いモンスターだけが残る。そんな場所だった。

 それでもカズトにとって高難度エリアのモンスターは敵ではないため、あらわれるモンスターを適度にあしらいつつ順調に魔石を集めていた。もう少し手応えがあるものと考えていたカズトは内心で舌打ちをしていたに違いない。

「……」

 手応えはなかったものの沈黙するカズトには少々引っかかることがあった。

 今日は妙にエンカウント率が高い。そのこと自体、高難度エリアであることをふまえると大したことではないのだが、モンスターたちに落ち着きが見られず捨て身の攻撃をするモンスターも多かった。モンスターは人間よりも魔力の動きに敏感と言われているが……と、カズトはこれ以上考えるのは無意味と判断しやめた。

 

 ***

 

「こんなもんか」

 カズトはある程度の魔石を集め終えて休憩していたが、突然奥の方から大きな地響きが聞こえてきた。地響きはだんだんと大きくなっていき、やがてカズトの立っている地面や岩壁、天井がこまかに震動し始める。

「地震……」

 かなり大きな揺れのようだ。洞窟全体の震えが大きくなっていくと立っているのも難しくなってきた。

 たおれないようにうまくバランスを取る。この長く続く揺れは魔法により引き起こされる地震ではなく自然な地殻変動から起こる地震だと直感した。

「……これは酔うな」

 カズトは舌打ちしてから自身に風をまとうとマントをはためかせて地面から数センチ宙に浮く。風は天井から落下してくる小石や砂利なども跳ね除ける結界ともなってくれているようだ。


 やがて強い揺れが収まるのを確認してからまとっていた風をはがして地面におり立つ。辺りには大きめの石などが転がっていて、地震の大きさを物語っている。

「おっきな揺れだったンだぁ。あんなに大きいのはすごーく久しぶりだったンだ!」

「……ゲノムス」

 カズトひとりしかいないはずの洞窟で、のんびりとしたそれでいて彼ではないもうひとりの声が反響する。やや怒りのこもった声で肩の上にいたそれの名前を吐き捨てつかむ。

「きゃー。暴力は反対なンだー! そもそも今の地震はおらに怒ってもしょうがないンだぁ。地面が動いただけなンだぁ」

 彼の肩にいたのは今は小人の姿をしている大地の精霊ゲノムスだった。勇者として精霊の力を借りているカズトにしか見えない存在ではあるが、彼らはカズトに普段から声をかけていてうるさいからと大抵は無視されている。

 カズトが名前を呼ぶとつかんでいたそれは砂に変わってサラサラと地面に落ち、地面に落ちた先で砂は再び小人の姿に変わりカズトの方を見上げる。

「まったく。あいかわらず勇者サマは乱暴なンだ」

 ぷんぷんとほっぺをふくらませるゲノムスは幼い男の子のようにかわいらしいが、カズトは見向きもしない。


 そして来るときにはなかった亀裂や落石をよけ、かなり遠回りをしてようやく入口の光が見える位置までやってきた。

 ようやく外に出られるそんなとき再びの長い揺れを感じて立ち止まる。やたらと小石が落ちてくるのでさきほどと同じように風をまとい後ろへ下がると、大きな音とともに入口から射し込む光が消えてしまった。

「!」

 今の地震によって入口付近にあった大きな岩が土砂とともに落ち、道どころか入口までもふさいでしまったようだ。これにはさすがのカズトも眉根をひそめて舌打ちをする。

「ゲノムス」

「おらのせいじゃないンだぁ」

 頭の上からひょっこりと現れたゲノムスはのんきに返事をした。カズトはゲノムスをひとにらみすると、くるりと入口に背を向けて歩み出す。

「ンあ。外に出ないンだ、勇者サマ? おらの力があればこんなとこ一瞬で――」

「途中、寝るのに最適な場所があった」

「ちょっと勇者サマー?」

 そのままカズトはゲノムスの言葉を無視して洞窟の奥へと姿を消した。

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