SECTION-17-空を断つ
ラウレルは一瞬、気を取られた。
遠距離からの発砲。
長年戦場に駆け抜けた《錬成者》ゆえに、狙撃は反射的に反応し警戒するようにできている。
それが自身を狙ったものではないと分かったとき、再び視線を戻した時、地上の赤い炎の中から、白い閃光が煌き、ラウレルが乗るエリゴスを襲った。
「ぐっ!」
機体全体に強力な電流が走り、中に乗っていたラウレル自身にも被害が及んで苦しげに呻くものの、何とか堪えて地上に視線を向ける。
紅蓮が取り巻く中、グローブはそこに君臨していた。多少の火傷は負っているものの、ほとんど無傷。
勇猛果敢な姿で空中を睨み、先程まで剣に纏っていた青い電流は白へと変貌している。これが自分を襲ったものの正体だとラウレルは気づく。
内部までに損傷を与えたこと考えると、先刻よりも出力を上げて自分に電流を浴びせたのだろう。
これが剣自体から直接受けたのであれば、強度な装甲を持つエリゴスでも耐えられない。
──だが、所詮は剣。
近づかなければ良い道理で、最初の一撃のように自分を地上に叩きつけたものが再び来たところで今度は警戒を怠らなければ回避できる。
悠然とラウレルは態勢をの切り直しを計る。
が、グローブの攻撃は終わってなかった。
「モード、十束剣(とつかのつるぎ)――」
グローブが剣の先を空に向けた瞬間、柄の部分が数十センチ伸び、白い電流が密度を上げて更に輝きを増し、刃が天に昇る。
地上から生み出された雷鳴が、世界を震撼させた。
かつて、グローブが全盛期だった頃、たった三度だけ振るった彼の剣の本来の姿。その威力は所持者の命を削ると知りながらも振るった力。
その姿にラウレルは言葉を失った。それはあまりにも巨大な白い刃。
ある時は――犇めく《ÜG》や千を超える《錬成者》の軍勢を倒すため。
ある時は――山ほど巨大な大型移動要塞が都市部を破壊する為に進軍するのを阻むため。
ある時は――大津波によって街が飲み込まれようとした時、そこに住む人々を守るため。
強大な威力なゆえにコントロールが困難極まり、人体を強化された《錬成者》でも、並みのものならば使用する前に自滅する。
仮に使用できたとしても人体に壊滅的な損傷を与える。グローブが寿命まで削り続けた諸刃の剣なのだ。
体が壊れること知った。死に急ぎだと責められた。
それでも振るったのは、誰かのために。
今回も誰かのために、そして、今回は自分の明日のために、その剣を振るう。
グローブのみが振るった無敵にして無敗の剣。
彼を条件さえあえば都市すら陥落できるランクAの《錬成者》だと知らしめた要因。
其れは――第三世代L・A、名をスサノヲ。
「《天羽―――々斬》ッ!!」
空が断たれた。
雲を突き抜けて、天を穿つ巨大な白刃は空気を焼却ながら容赦なく敵へ振り落とされる。巨大な刃が振り落とされたことによって、大気が絶叫し、吹き上がる烈風によって、森を焼いていた炎すら剣圧のみで消し飛んだ。
スサノヲとは本来、超振動電粒子熱線刃という巨大切断器。
今まで真の機能を十全に使うには高ランクの《錬成者》も反動が大きすぎるため、身体に問題を起こしたグローブは一部の出力のみを解放していた。それでも高電流の刃として使用して、十分すぎる戦果を上げていた。
だが本来の機能を発動する場合、柄の部分が伸びた《十束剣》という形態で全ての力を解放し、出力を最大にした電流は青から白へと変貌する。
《天羽々斬(アメノハバギリ)》という超エネルギーの刃。
出力最大で攻撃範囲は約100キロ以上。
これはおよそ大気圏を超える距離。その巨大な刃のエネルギーを圧縮しながら目標まで振り落とす事により、威力を増大させる。
迫り狂う強大な刃の前に、呆然としていたラウレルは我を取り戻すとすぐさま回避行動を取る。いくら強力な武器であろうと当たらなければ意味がない。
「なに……動けない!?――てめぇ!!」
硬直するラウレルが吼える。
動けない理由は先程に受けた電流。
あれの正体は数日前、別のテロリストの《錬成者》にも放った強力な電磁波で、身体の自由や機体の機能を奪ったのだ。
絶体絶命の前にして、ラウレルが思ったことはなおも闘争。この後に及んで、これから赴くだったはずの戦場の光景に思いを馳せていた。
光が広がる。
圧縮された高密度の刃は、エリゴスの装甲を一瞬にして溶解し、灼熱の閃光に飲み込まれながら吼えたラウレルの断末魔は光に飲み込まれて消滅した。
長年、戦火を捲き散らした狂人は、誰に看取られることなく、その命を白い光と共に消える。
敵の消滅と共に役目を終えた巨大な白刃も夜の闇の中へ溶けるように霧散した。《天羽々斬》によって、天を覆い隠していた雲はなくなり、星が瞬く夜空の中、静寂が訪れる。
‡
その光景を彼女は森から離れた平原で眺めていた。
全てを薙ぎ掃う閃光を、彼女はまるで鳥が羽ばたいたかのように綺麗だと見入っていた。
気づくと、森の火事がなくなっている。空には何時の間か星空が辺りを照らし、静かな夜を彩る。騒音や燃え盛る音で響いていた空気。
時折小さな虫達が命を謳歌するよう鳴くことで、鈴のような音色を奏でる。
暗く寂しく不安だった夜が、こんなにも美しかったのだと、彼女は思った。
だが、まだ彼女の胸から暗雲は晴れない。
戦いが終わったことは分かる。彼が勝つことを信じている。
それでも、その姿を目にするまでは、どうしても寂しくて堪らない。
待つ。待つ。ただ、ひたすらに待つ。
駆けだして迎えに行きたい気持ちを抑えながら、彼女は待っていた。
君の所に戻ると今度は約束したから、自分は信じて待っていなければならない。
どれくらい経ったか。
この孤独が永遠に続くのでないかと悲しい気持ちに満たされるた時、かさりと森のほうで音がした。
彼女が驚きながら目を向けると、そこには待ち焦がれた姿がある。
その瞬間、すでに耐え切れなくなった彼女は彼に駆け寄りながら、その名前を呼んだ。
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