番外編2 レオノーラ・オークウッドの悩み
レオノーラ・オークウッドは、帰宅前に校内の見回りをしていた。
まだ明かりの点いている部屋──錬金術特有の雑多な器具がひしめく中に、ぶつぶつと呟く人物を見かける。
ホリー・エヴァンス。レオノーラが校長を
水晶玉で<遠視>をしている様子。
「のぞき見していたのですか、ホリー。あまりいい趣味とはいえませんね」
「学校でその呼び方はしないでくださいな、校長」
「それほど気になるのならついていってあげればよかったのに?」
軽い冗談のつもりだったのだが、ホリー・エヴァンスは水晶玉から目を上げ、ぶすっとした顔で答えた。
「そんなみっともない事ができますか」
レオノーラは苦笑する。
――まったく、意地っ張りなんだから。
「生徒はみな、あなたを怖がっています。もう少し柔らかな言い方とか、できないものですか」
「社会に出れば、厳しいことはいくらでもあります。今のうちに壁を経験しておいた方がいい。私は乗り越えがいのある壁のつもりです――そのくらいできなくてはむしろ心配ですわ」
「わざわざ鬼教師を演じることもあるまいと思うのですけどねえ」
「そこはそれ、私の趣味ですから」
「まったく」
ふふふと笑うホリーを見て、レオノーラはため息をついた。
「あの生徒――特にあなたに反発しているみたいね」
「才能は素晴らしい子だと思います。ただ、全体を見通すような思考がまだ未熟で、目の前のことにとらわれてしまう」
「それは<若い>ということですよ」
「そうですね、きっとあの子はよい魔法使いになるでしょう。あの短気さが一番の問題のような気もするけれど。私にだけつっかかってくるのが不思議ですわ」
――あなたは気づいていないようですが、あの生徒は若い頃のあなたにそっくりですよ。
「だからそういうことを当人に言ってあげればいい、といっているのです」
「……生徒がつけあがるようなことをするつもりはありません。校長、私はもう少し仕事をしていきます。戸締りはちゃんとしておきますからご心配なく」
首を振り振り、レオノーラはかつての教え子の部屋を後にする。
――やれやれ、手のかかること。生徒たちも、あなたも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます