第三話 三人
病室。眠る二人。
「莉菜。ちゃんと、吐き出せたんだね。」
静かに語るその言葉は暖かく、愛に満ちている。
「んぅんん」
そう言って、湊が目を覚ました。
「ん?と、友恵さん?」
驚きながらに、時計を探す。動こうとしたその時。
湊は肩にある違和感に気がついた。
湊の肩には莉奈が寄りかかって、気持ち良さそうに眠っている。
「湊くん。もうちょっとだけ、寝かせてあげて。重いかもしれないけど。きっとその娘、昨夜はあんまり寝れてないと思うから。」
優しい、母親の眼差し。愛のある願い。
湊はそうですねと言わんばかりにははっと笑って見せた。
湊に、断る理由など無い。肩にかかるその重み、暖かみ、その全てが莉菜の存在の証明であり、愛なのだから。
「莉菜、バレてたな。」
クスッと笑いながら、友恵には聞こえない様な小さな声で肩の莉菜を見た。
静かな病室。暖かい空間。少しの静寂。
「ごめんね湊くん、またちょっと莉菜のこと任せてもいいかな?私コンビニ行って来るから。」
ニコッと湊に笑いかけると友恵は病室を後にした。目に泪を浮かべながら。
「はい…。俺はだいじょーぶですから。」
友恵のそれを感じ取りながら、湊はニッと笑って友恵を見送った。
二人の愛はその静けさゆえか悲しみを孕んでは隠して、逃げる。
莉菜のため。そんな大義名分にエゴの言葉を隠して。
「なあ、莉菜。寝て、無いんだろ?」
湊のその言葉で、肩に振動が伝わる。莉菜の、首が動くその動き。
「もう、ちょっと、ちょっとだけ。私を、任されてよ。」
静かに、クスッと笑って、目を瞑る。
「あったかい。」
口元に優しい笑みを浮かべて莉菜は呟く。
「それが、ひとだよ。」
静かに目を瞑った湊が言う。
「そっかぁ。もっと私、ひと、知りたいなぁ。」
「知れるよ。きっと。」
悲しみも、憎しみも、後悔も、憐みも。何もない。二人の会話。
静かで、暖かくて、忘れてしまいそうなほどに儚いけれど、この瞬間確かにあった、ひとの本質。愛。
友恵は病室に戻る。愛を抱えて。
「ほら、少しおやつでも。」
目あける二人に元気に声をかける。
「おいしい。」
「おいしいな。」
「おいしいね。」
呟きから派生しては楽しみが広がる。
「最近、二人とも、元気にしてる?」
ニコッと笑って問う莉菜は、明るく、元気な女の子だ。
「あぁ、元気だよ。」
優しく、明るく応対する湊。
「ちゃんと、元気にやってるわよ。」
ふふっと笑って答える友恵。
その二人に、遠慮の色などありはしない。純粋に、ありのままを。誠心誠意。
愛があるからこその全力。心に宿る
「よかった。」
優しい笑みに包み込んだ、その言葉。
愛に満ちた、三人。
この日、三人は話し続けた。
面会の時間を忘れるほどに。
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