間章 風車の回る国、オロボンの朝。

「あのさあ。壁に欲情する女っているらしいぜ。壁の形がセクシーだとか」

 グリーン・ドレスはそんな猥談を始めた。


「なあよおぉ。マジで自動車とかと性行為出来るって考えている馬鹿な女がいるらしいんだぜぇ。そいつらって、エンジンとか、パイプとかアレに突っ込むのかなあ? ひゃははははっ! なんで、無機物に欲情する奴っているのかなあ? フェティシズムって奴? でもよぉ、皮のブーツとか異性の手足とかなら、まだ分かるけどよぉ。なんで、自動車と性行為するんだよぉ、アレだろ、病的な奴らって、銃とかとヤルんだろ? あれかっ! ガチガチに固いからかあ? そうだもんなあっ! 機械とか壁とかって、へにゃへにゃじゃねーからなあっ! 」

 そう言いながら、彼女は一人で勝手に頷いて爆笑していた。


「ドレス……、何故、お前はそんなに品が無いんだろうなあ」

 ウォーター・ハウスは小さく溜め息を吐いた。


「ちっ、つまんねぇーな。ラトゥーラ、どうよぉー。無機物と性行為する人種ってなあぁー?」

「うーん、……、人の趣味は様々かと…………」

 ラトゥーラもかなり微妙そうな顔をしていた。


「ドレス。盛り上がっているのは、お前だけなんじゃないか?」

「ウォーター・ハウス、お前の小難しい哲学講義だって、聞かされる他人はウンザリしてるだろ? なあ、ラトゥーラ、どうだよぉ? シンディもさあ」


 シンディは真剣な顔をして考え込んでいるみたいだった。


「どうした、シンディ? ええっ、私の話ドン引きしたの?」

「…………、ええっと。壁とか家とかに異性の名前を付けるんでしょうか? その人達って…………」


 ウォーター・ハウスとラトゥーラは顔を見合わせて、頬を引き攣らせていた。

 …………、女二人の猥談である…………。

 正直、童貞同士のエロ妄想より酷い……。


「そう言えば、風船を使うAVを観せられた事があります。ええっと、同業者の友人からですが……」

「なんだそりゃー、風船を胸みたいに揉むのかよおぉ? 大量に圧迫されるわけぇ? 待てよ、そうか、バルーン・アートみたいに、男のアレの形にしてブチ込むのか? それとも、女のアレの形にして、挿れるのかよぉ? マジで笑えるぜ!」

 それを聞いて、グリーン・ドレスは腹を抱えて笑い転げる。


「処で思ったんですが、ドレスさん。人間は車や銃器、家や風船と性交渉した際に“妊娠”出来るんでしょうか?」

 シンディはかなり大真面目な口調で言う。

 グリーン・ドレスはそれを聞いて、かなり爆笑した。


「メカ人間が生まれるぜっ! 壁と一体化する人間だとかよぉー。人体が変形して、車になったり、身体から銃弾出したりさー」

「どんな生活するんですかね? 何を食べるんでしょう?」

「きっと半分機械だから、油だぜ。オイル。バーガー・ショップのコーラみたいにさあ、ストロー入れて、オイル飲むんだぜ、そいつら」

「日常的に機械音とか出すんでしょうか? 歩く度に、ガシャーン、とか?」

「バイクとのハーフだとよぉー。身体にタイヤが付いているんだぜ。それで、通勤通学する。スゲェ、便利な身体なんだろーなっ!」

 そう言いながら、ドレスは壁に向かって手を叩いて笑う。


「貴様ら、本当に頭がおかしいんだな…………」

 ウォーター・ハウスは、もはや生物学的に絶対に不可能だという突っ込みを入れる気も失せる。そして…………、有機物と無機物が融合した存在か。そういう能力者がいてもおかしくないかもなあ、と結論に至った。思考実験としては悪くは無い。

 そう言えば、ウイルスが生物であるかどうか分からない、という話がある。生物と無生物の中間がウイルスである、と。


 とっくに、太陽は昇り始めている。


 朝日が四名に照り付けている。

 10時になれば、このホテルをチェックアウトしなければならない。

 正直、敵との戦いで寝不足だった。


「まあ。そろそろ、オロボンの国を出発しようぜ」

「その前に朝食だな。まったく、貴様らのせいで、食欲が無くなる」

 ウォーター・ハウスはふんぞり返る。


「おい。グリーン・ドレス。貴様、食事中にくだらねー下ネタ止めろよな。食事が不味くなる。まったくっ!」

 彼は本当に不愉快そうな顔をしていた。


「ああ、食事中、無言かよ。つまんねーじゃん」

「不快な話題は止めろって言っているだけだ。此処の国の名産である、様々な種類の高級チーズが不味くなる。それから、ハムを挟んだパン。コーン・フレーク。オレンジ・ジュース。じっくり堪能したいからな」

 そう言って、ウォーター・ハウスは毒づく。


 なんなんだろうなあ、このカップルは、とラトゥーラは何とも言えない顔になった。


「しかし、飛行機使わなければ、意外に長いんだな」

 グリーン・ドレスは大欠伸をする。

 飛行機に乗る事を止めたのは、撃墜される危険性を考えてだ。

 此方の行動は何らかの能力によって、移動がバレてしまっている。

 敵の思考パターンを考えれば、飛行機を他の乗客ごと撃墜する事などまるでお構いなしにやってくるだろう。


「朝食、みな、しっかり取っておけよ。俺の予想では、オロボンを出る最中に、敵に襲撃される。それから、各自、車の中で仮眠は取れよ。運転出来るのはラトゥーラだけだから、途中、宿泊所に寄る。ラトゥーラ、お前はその時、最低二時間は寝ろよ」

 ウォーター・ハウスは真剣な顔でそう言った。

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