第七夜 アルモーギの『プラネタリウム・ボックス』 2

「ははっ、どうだ!? この俺の『プラネタリウム・ボックス』はっ!」

 美術館の屋根の上に、男は潜んでいた。


 彼は少しだけ異変に気付く。


 自分の周辺が少しだけ熱い。


 セーラー服を身に纏った、長い黒髪の少女のような顔の少年が現れる。

 彼は左手に渦巻き状に二つの刃が絡まり合った炎の刀剣を握り締めていた。


「お前がこの攻撃を使っている能力者か……っ!」

 ラトゥーラは、凛とした瞳で敵を睨み付けた。


「はん? おおぉ、テメェが可愛らしい男の子か。ひひっ、はひひひひっ、この俺の名はアルモーギ様だっ! あの港町はイイよなあ、ニューハーフと一度ヤッてみてぇんだ。なあ、お前、まだ下半身のアレ付いているのかよ? それとも、もう取っちまったのかあん? なあ、どっちでもいいけど、テメェの舐めさせろよ、そして、俺のもたっぷりとくわえさせてやるよおおおぉぉぉ!」

 そう言いながら、彼はいきなりズボンのジッパーを下ろし始める。


 ラトゥーラは極めて不快そうな顔になる。


「切り倒してやる。この僕が…………」


 アルモーギと名乗った大男は腹を抱えて大笑いを始める。


「この屋根の上も、この俺様の『プラネタリウム・ボックス』の異空間なんだぜぇ? ああ、ひっひひひっ、たっぷり嬲り者にしながら犯してやるよ。可愛い、可愛い、男の子のお嬢ちゃんーっ!」

 そう言いながら、アルモーギは両腕を回して、環を描き始めた。

 すると、彼の頭上に、大型のボートのようなものが出現していく。


 空中を浮遊している船だ。

 彼はその上に飛び乗る。


「ひひっ、まずは溺れて貰わねぇとなあああああああっ!」

 彼は空中を泳ぎ始めていた。


「僕の力の名はまだ無い…………、でも、使い方は少しずつ、理解している。僕は、お前を倒すっ!」

 そう言うと、ラトゥーラは右手を空へと掲げた。


 すると、渦巻き状の炎の剣が伸びていく。

 そして、アルモーギの乗る船の底に孔が開いていく。


 アルモーギは、咄嗟に、屋根に身体を打ち付ける。

 ラトゥーラは炎の剣を伸縮自在に伸ばしていく。


 そして、そのままアルモーギの胸の辺りを貫こうと、炎の剣をレイピアのように突き立てる。


 何処からか、海亀が落下していく。

 その甲羅によって、ラトゥーラの炎の剣が弾き返される。


「…………っ!」


 気付けば、ラトゥーラは無重力空間に放り込まれているような感覚に陥っていた。


「俺の能力による異空間の作成から逃れる事なんて不可能なんだぜぇ。このまま、テメェを押し倒して、テメッェの×××に俺様の×××を挿れてやるぜ。ひひひっ、屈辱に歪む顔を見せなっ!」

 そう言うと、身長180以上はあるアルモーギの肉体が小柄なラトゥーラを押し倒していく。そして、大男は、セーラー服の男の娘の首筋を舐め始め、服を脱がしていく。


「ひひひっ、泣き叫べっ! どぉーれ、アソコの形をみましょうかあああああっ! お医者さんごっこ、でちゅよおおおおおおおおおぉおぉおおぉ!」

 彼は懐から黄色い粉の薬物を取り出して、吸引を始める。そして、ゲラゲラを笑い始めた。完全にハイになって、キマっているみたいだった。


「よくやったラトゥーラ。後はこの俺が始末する」

 突如。

 アルモーギの顔面に、瓦礫が炸裂する。

 アルモーギは十数メートルは軽く吹っ飛ばされる。

 そのまま、屋根から落下していく。


 ウォーター・ハウスだった。

 彼はラトゥーラの身体を優しくいたわる。


「ありがとう御座います…………。ウォーター・ハウスさん……。あの……」

「俺は大丈夫だ。何とか脱出出来た。よく敵を見つけてくれたな。そうだ」

 ウォーター・ハウスは懐から何かを取りだす。

 それはカシュー・ナッツの入ったチョコレートのケースだった。


「ええっ……?」

「いいから口にしろ。一粒でもいい」

 ラトゥーラは言われるまま、口にする。


 アルモーギが屋根に這い上がっていく。


「暴君ウォーター・ハウス…………、テメェ…………、サメに喰われたり、クラゲに刺された筈じゃ…………」

「生憎、サメは腕力で返り討ちにしたし、クラゲはな。俺には毒は効かない。それから、お前達の戦いの音で、お前達が屋根にいる事が分かった」


 アルモーギは空中で一回転しながら、空へと跳躍する。

 そして、そのまま彼は空中を泳いでいく。

 アルモーギの背後には、沢山の小惑星のようなものが生まれていた。小惑星はヒビ割れていき、次々と、肉食魚の群れを孵化させていく。


「骨ごと喰らえっ! 『プラネタリウム・ボックス』より生まれる肉食魚共っ! 此処は俺の海域なんだ、俺のテリトリーなんだ、テメェなんか薄らボケなんて魚の糞になるしかねぇーんだよ」

「やはり、屋根の上に登ってきたな。そして、最高な事に、お前の位置はいい。最高にいいんだ。…………他に誰も巻き込まなくて住むからな」

 ウォーター・ハウスは静かに、自らの上半身の服をめくる。


 腹の口が開く。


 殺人ウイルス。

 それが辺り一面に撒き散っていく。


「ははっはははっ、ひひひひっひひっ! この俺を倒す事はムリだぜぇ、ウォーター・ハウス。俺の方が早いからなあぁ! それに、そこのガキも巻き込むんだなっ!」

「そうかな。先程、ラトゥーラに渡したチョコだが。あれは俺のウイルスに巻き込まない為に作ってある、血清なんだが」

 ウォーター・ハウスは、汚物でも見るような視線を、天空に飛び上がっている海賊に向ける。


 肉食魚達は、ウォーター・ハウスの腹の口腔から生み出される殺人ウイルスによって、次々と大地に落下していく。ラトゥーラはまるで平気だった。


 殺人ウイルスに貪り尽くされて、肉食魚達は皮膚も肉も骨もボロボロに崩れ去っていく。アルモーギもウイルスに感染しているみたいだった。


「なああにぃいぃぃいぃいぃ!?」

「あのな。はっきり言うぞ」

 ウォーター・ハウスは半ば呆れた声を出した。


「お前、本当の本当に頭悪いだろう?」

 そう言うと、彼はラトゥーラの肩を掴んで、腹の口を仕舞う。


「はひゃああああああああぁあああああっぁ!?」

 変な奇声を上げながら、海賊・アルモーギは彼が生み出していた肉食魚達と一緒に、大地に落下する途中で絶命した。


「さてと。ラトゥーラ。ボジャノーイの有名な『凱旋門』で、ドレス達と待ち合わせをしている。共に帰るぞ」

 そう言うと、彼はラトゥーラを抱き締めて、屋根から跳躍して落下するのだった。



「馬鹿が死にましたよ」

 ヴァシーレは手にしている双眼鏡を、相棒として付いている男に渡す。


「やはり馬鹿だったな、あの海賊」

「焚き付けたら、真っ先に特攻しましたねぇーと。でも、奴の殺人ウイルスの射程距離、それから発動時間、発動条件も大体、分かったなあ。マコナーだけでは分からなかった。仲間の為に血清も作れるみたいですねぇー。ひひっ」

 ヴァシーはわざとらしく、丁寧語を交えてアルモーギの死をコケにして侮辱していた。


 二人共、数百メートル先から、苦笑し合っていた。


「ウイルスの感染、肉体を破壊する速度も大体、分かった。それから、奴はどうやら、何らかの理由で、周辺の人間を巻き込みたくないみたいだ。隣の少年の考えなのか? ならば、付け入れさせて貰う」

 ヴァシーレとペアを組んでいる男は、顎を手で押さえる。


「さてと、我々はちゃんと暴君を倒す為に作戦を練っておくか」

「それがいい。処で何を話しているか、読唇術も出来るんの? あんた」

「ああ、奴らが何を話していたか分かった。凱旋門に向かうぞ」

「イエス・サー」

 二人の暗殺者は、ビルの上から跳躍する。


 ボジャノーイの凱旋門。

 そこで落ち合うつもりだろう。


To be continued

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