第三夜 戦いの波紋の前に。
「物凄く悪い事をしたな」
ウォーター・ハウスは言葉とは裏腹に悪びれもせず、男二人を引きずりながら捕まえていた。
「どうも、このホテルの周辺を監視していたみたいだからな。今からこいつらを拷問して情報を吐かせようと思うんだが。どうだろうか?」
そう言うと、彼は男二人を部屋の中に蹴り飛ばす。
「ああ……、それよりも、私とラトゥーラの傷治してくれよ。あなたの能力で…………」
グリーン・ドレスはかなり顔色が悪そうにしていた。
出血が酷い……。
思った以上に、少し……、敵が強かった……。
ラトゥーラは姉のシンディによって傷口に布を当てられて応急処置が施されている。
「取り敢えず、重症の方から治すぞ」
そう言うと、ウォーター・ハウスはラトゥーラの傷口を見る。
「ふう。ダメージは銃弾じゃないんだな」
「拳銃だとかスナイパー・ライフルに溶解液込めてぶち込んでくる敵だったよ。なんとそいつ、この国の政治家だってよ」
「そうか。政治家か。マフィアと繋がっているわけだな」
そう言いながら、彼はラトゥーラの腹の孔に右手の指先を触れていく。
見る見るうちに、孔が塞がっていく。
「傷は治せるが失われた血液までは戻せない。輸血させるか何か食べさせろ」
そう言いながら、ウォーター・ハウスはグリーン・ドレスの身体に触れて、彼女の傷を治していく。
「処で重要な事なんだが。ドレス、奴らに俺の能力は知られているのか?」
「分からねぇ。不明だ。私は喋ってねぇよ」
「ならいいが。俺はなるべく対策されたくない。相性の悪い能力者だって多い。俺の能力はせいぜい“怪我を治せる”程度の能力だと思わせておきたい」
「ああ。いつも通りだな」
「さてと」
彼は転がっている男二人を見た。
「喋って貰う、出来る限り。そうすれば楽に殺してやる。お前達が知っている事、全部だ。俺達を狙っている組織は今、どれくらいいる? マイヤーレだけか? マイヤーレのメンバーは全部で何名だ」
「し、知らねぇよ。俺はお前達を監視していろって言われただけだよぉっ!」
「そうか」
暴君はそう言うとその男を捕まえて、部屋の外へ出す。
そして、男の頭をブーツで勢いよく踏み潰して砕いた。
プレス機で押し潰されたみたいに、男の頭蓋はペシャンコだった。
「部屋で死なれて、持ち物にお前達の脳漿が付くのは困る。お前も何も知らないんだろ?」
もう一人の男は泣きながら頷く。
暴君はその男も部屋の外に出すと、容赦なく頭を踏み砕いた。
シンディはその光景を見て思わず口を押さえて嘔吐する。
完全に理解出来ないといった顔をしていた。
「そうだ。コンビニに行ってきて必要なものを揃えた」
ウォーター・ハウスはビニール袋に入っているものを取り出していく。
絆創膏。包帯。消毒液。スポーツドリンク。それから街の地図だった。
「この国から上部に行く。監視していた奴らが吐いた。マイヤーレの本拠地はこっから北東に向かわなければならない。それから、俺達を始末する為の暗殺チームを募っているんだとよ。全員、始末する。一人も生かさない」
シンディは暴君の表情を見る。
楽しんでいるのだろうか……?
淡白な無表情だ。
ただ、合理的な事を遂行しようとしているのかもしれません。
……なんで、こんな酷い事が平然と出来るんですか?
そう聞こうと思ったが、口にするのを止めた。
「さてと。明日にはマイヤーレの本拠地に向かうぞ、睡眠はちゃんと取っておけよ。俺は体力までは回復させられないからな」
そう言うと、ウォーター・ハウスはベッドの上に寝転がった。
そして、すぐに寝息を立て始める。
「本当にマズイ事になった…………」
ラトゥーラは呟く。
「レストランのウェイター、警察官、このホテルの従業員だってそう。コンビニの店員だとかも。誰がマフィアと繋がっているか分からない……、繋がっている処か組員そのものかもしれない……。四六時中、暗殺の危険が付いて回る……」
ラトゥーラの呟きを聞いて、シンディも暗い顔になる。
もう安心出来る場所なんて、この国の、いや、この世界の何処にも無いかもしれない。
「あなた達、それを覚悟しているんでしょ? 私達に依頼したんだっつー事は、覚悟したんでしょ? 世界中の人間を敵に回すかもしれないって事をなあっ!」
グリーン・ドレスは壁にもたれて座りながら大欠伸をする。
「向かってくる奴は全員、叩き潰す。何も問題無ぇーだろおぉ? なあぁ? 全員、ぶっ殺せば何も問題無いだろうがよ。マフィアの構成員を一人残らず殺せばいいだろうがよぉ」
「グリーン・ドレスさん…………」
ラトゥーラは不安そうな声を出す。
「たった一つだけシンプルな解決方法が私達にはあるぜ。とってもシンプルな方法だ」
グリーン・ドレスは指先をラトゥーラとシンディに向ける。
「こっちが圧倒的な力を見せつけてやる。徹底した暴力って言い換えてもいいぜ。私達が強くなればいいんだ。シンプルだろ? 向かってくる奴、全員、叩き潰してぶっ殺してやる。何も問題ねぇな。何度でも言っているだろうがよ」
そう言うと、彼女はすやすやと眠り始めた。
この二人にはまったく敵に対する恐怖が無いのだろうか。
改めて、ラトゥーラとシンディの二人は、どれだけ強大なものを敵に回してしまったのかを、そして、どれだけ凶悪な者達を味方にしてしまったのかを理解する。
†
「透明人間(インヴィジブル・マン)が焼死体で発見された。ああ、俺の『コロンビア・ネクタイ』が追跡を開始するつもりだ。奴らを始末する為のヒットマンを結成する。組織の奴らじゃなくてもいい。フリーの殺し屋を選んだ方がいい。なるべく奴らの能力の相性の悪い超能力を持っている奴らがいい」
彼は電話を掛けていた。
そして売春窟で手にしていたシンディの服と、ビルの中で手にしたグリーン・ドレスのズボンの切れ端を交互に手にして臭いを嗅いでいた。
「だが。何よりも重要なのは、炎使いの女のツレの男。奴の能力の全貌を見破る事だ」
そう言いながら、男はシンディの服を舐め始める。
「ククッ、女の臭いはイイなあ。ヒヒっ、何処までも追跡してやるぜ」
男はビルの中から抜け出す。
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