第1話 始まりの余韻

どれくらいの時間が経っただろうか。

気が付くと、私は草むらの中で仰向けになって横に倒れていた。

そして、微かに横から鼻息が聞こえた事に気が付いた私は、気になってその方向を向いた。

「ここは……。」

そんな言葉を発したのは、見慣れた彼……雛野 羚だった。

そして、そんな羚は私と同様に、私の方向を向いて、私とほぼ同時に言った。

「「……あ。」」

謎の体験をした後。

あの言葉が頭から離れない。

“無人星”。

周りを見たが、その景色に見覚えはなかった。

それは、現代の地球には存在し得ない景色。

現代社会から考えると、それは明確だった。

ここは無人星。

そう……、無人の星。

私達以外の人間が、全く、一人も存在しない星。

これからそんな場所を生き抜かなければならないのだ。

私達は。

私がそんな事を考えている中、羚はまだその事を理解出来ていないようだった。

天高く位置する青空が、私達を嘲笑うように見下ろす。

「ここは……?」

羚があっけらかんとした表情で呟いた。

わたしはそんな羚に笑い掛けるように言った。

「さっき聞いてなかった?」

「……?」

羚は困惑した表情でこちらを見つめる。

そんな彼の表情を見つめながら、私は答えた。

「……無人星、よ。」

「無人星?」

羚は、そう聞き返すと、またも口を開いた。

「でも、もう僕たちが居るから、無人では無くない?」

「……あ。」

確かに。

そういえばそうだ。

私は何を考えていたのだろう。

羚との会話が終わった後、私はなんとなく空を見上げた。

この星の人間が私達以外一人も居ないのと同様に、雲一つ無い、晴天の青空。

そこで何かが光った気がした。

しかし、今はこんな状況だ。

脳が困惑して、幻影を見せているのだろうと私は目を反らした。











「……おい、見ろ。」

明るい光に照らされた、石で出来た部屋。

そんな、図太い男の声が響いた。

遠い……、遠い、宇宙のどこか。

そこに存在する星を観察するために放たれた衛星のカメラが、その表面で仰向けに横たわる二つの人間らしき影をとらえ、それが彼の目の前にある画面へと映し出されていた。

「どうしたんですか? 博士?」

一人の研究員が、彼にそう聞いた。

彼は返事が遅かった事に多少腹を立てたものの、その問いかけに、落ち着いた声で答えた。

「見ろ。」

研究員はそんな彼の言葉に、その画面を見た。

「これは……人間……?」

研究員はそう口にした。

「そう。人間だ。」

彼は答えた。

「地球と環境が似ていることから、この星ではこれまでに幾つか地球と同じ生物が見付かっているが、進化の過程も起きず十代位の男女が突如現れた。もしかしたらこの星には、我々が見付けていないだけで、文明があるのかもしれない。……O-015惑星に、直ぐに探査機と人間を送れ。政府に連絡もしておけ。」

「了解しました――……










――真っ赤な海が、目の前の視界を赤く染めていた。

肉塊へと変貌した娘、そして姉の息子。

彼は哀しみの表情を浮かべ、激痛を堪えながら車から這い出した。

人通りの少ない、山道での事故。

衝突してきた車も、前方が大きく損壊し、運転手も子供たちと同様の姿へと変貌して、息が途絶えていた。


……生臭い血の臭いが辺りを覆う。

彼のスマートフォンは彼の関節と共にひしゃげ、使えなくなっていた。

そんな中、追い越し禁止の道路標識が、彼をまるで嘲笑うかのように、ただジッと見つめていた。

彼はそんな道路標識へ嫌悪感を感じながら思った。

……とりあえず今は、早く誰かに助けを求めねばならない――。


後悔と悲しみの感情が、彼の精神を崩壊させようと波打っていた。

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